──ここまでプライバシー保護重視になったのはなぜでしょうか。
厚生労働省はこのアプリの目的として①と②を最初に提示していた。有識者検討会合でも、慎重なヨーロッパ諸国など世界各国の動向を踏まえて検討し、プライバシーのリスクは最小限にするという点は一貫していた。
一方で、最小限度のデータ取り扱いによって公衆衛生上の本来の目的がどこまで実現できるのかという意見も一部あった。一研究者としては、貴重なデータとして保管して事後的に検証することも意味があると思う。ただし、今回の目的としてはこの仕様が妥当だろう。
──アプリは多くの人が利用しなければ効果がないと言われています。普及率の目標はありますか。
特定の目標は決まっていないが、オックスフォード大学の研究では全人口比で56%が利用すれば効果があると報告している。だいたい6割が相場だろう。例えばLINEは何年もかけてユーザー数約8300万のアプリになったが、そもそもスマホ自体の普及率の限界もあり。国民全体の6割に普及させるのは容易ではない。
普及率を高めるには、誰もが使うアプリとの連携やOSに強制的に入れたり、韓国のように法律を作ったりする方法も考えられるが、現状の日本でできるのは2つ。
一つは丁寧に説明し、納得して使ってもらうこと。利用者にとってのメリットの設計も重要だ。可能な範囲で見えやすいメリットをつけて、自主的な普及を期待する。例えば、このアプリを入れて接触アラートが来たら、優先的にPCR検査を受けられるといった仕組みが考えられる。
また、国民全体の6割以上を目指そうとすると難しいが、重点地域を設定することも考えられる。例えば、極端に言えば感染者が報告されていない岩手県は普及率ゼロでもいいが、東京は普及率80%にするなど、地域で濃淡をつける。また、組織単位、事業所単位で導入するのも有効だろう。病院や福祉施設だけでなく、感染リスクが高いとされるライブハウスや飲食店で導入し、感染が起きても接触確認ができるので営業を可能にする、というような雰囲気づくりもできるかもしれない。