いよいよ日本でも開始、接触「確認」アプリは本当に有効か?

フランス政府が開発した陽性者の追跡アプリ


──大阪府や岐阜県などの自治体が主体となり、集会所や飲食店にQRコードを設置し、感染者が出た場合にお知らせを送るアプリなどもすでに始まっています。それらとの連携や住み分けはどのようになっていますか。

日本での議論はこれからだが、シンガポールを参考にできるかもしれない。シンガポールのコンタクトトレーシングアプリ「Trace Together」の普及率は3割ほど。一方で、「Safe Entry」というQRコードを使った大阪府などで使われているアプリに近いものもあり、そちらはインストールが義務付けられている。日本でも、両方のアプリを並存して運用できるだろう。

大阪府だけでなく神奈川県のLINEアプリとQRコードを使った「LINEコロナお知らせシステム」などさまざまな動きがあるが、できることなら各都道府県でバラバラにやるのではなく、統一的にできる仕組みというのがあるといい。保健所での活動や、今回の接触確認アプリとの連動についても検討の余地はある。

──新型コロナウイルスの第2波、第3波だけでなく、気候変動やグローバリゼーションの影響で新しい感染症のパンデミックの脅威が増しています。今回の経験を今後どういかせるのでしょうか。

今回は、初めての試みとして効果が限定的になったとしても、第2波、第3波の発生に備えて、アプリの運営状況や効果と課題について検証と議論をすることが重要だ。

議論として難しいと感じたのは、新型コロナウイルスの病気としての「怖さ」をどう考えるかという点だ。最初は医療従事者でも風邪の一種だからと甘く見ている人もいた。それが志村けんさんの死去で自粛が一気に進んだ。

しかし、例えばエボラ出血熱など、一類感染症に指定されているような、新型コロナウイルスよりも致死率が高い病気もある。もっと感染性が高く、致死率が高い病気が来た場合には、ロックダウンのようなより強制力の高い対策も必要になるだろう。感染率や致死率も踏まえて、その病気の脅威をどう考え、それに対してどこまで強制力がある手段をとるのか。プライバシーとの兼ね合い含めてもっと議論が必要だ。

国際的に見ても、コンタクトトレーシングについて、感染症対策として携帯電話の基地局情報やGPSを使ってもっと積極的にやるべきだという意見もあれば、もっと慎重にという意見もある。コンセンサスを取るのはすごく難しい。いざという時に対応できるように、余裕がある時にこそ議論を深めて社会的なコンセンサスを醸成することが重要だ。

油断しすぎたり怖がりすぎたりせずに、どうやってバランスを取っていくのか。その考え方の一つとして、世界経済フォーラムでは「社会的合意に基づく公益目的のデータアクセス(Authorized Public Purpose Access、APPA)」という考え方を提案している。

APPAについては第2回『「データは誰のもの?」は成り立たない。個人の権利と公共性の両立へ』


藤田卓仙(ふじた・たかのり) ◎世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター ヘルスケア・データ政策プロジェクト長、慶應義塾大学医学部特任講師。2006年東京大学医学部卒業、2011年東京大学大学院法学政治学研究科修了。 専門は医事法、医療政策、特に医療情報の取り扱いに関する法制度。主な著書『認知症と情報』(勁草書房)。

文=成相通子

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