『ヘルプ』 厳しい差別の中で言葉を紡いだ黒人メイドの物語

第17回放送映画批評家協会賞のステージにたつ映画『ヘルプ』のキャスト(2012年1月12日撮影、Getty Images)


「怖いのは視線」という心配は、黒人の中だけにあるのではない。白人は白人の同調圧力の中で、「視線」に怯えている。

たとえばヒリーと仲の良いエリザベスは、「強者」であるヒリーの仲間でいるために、彼女に決して逆らわない。

また、メイドを解雇したわけを娘に隠すスキーターの母もかつて、周囲の圧力に負けて不本意な選択をしていたことが明らかになる。そして表面的には理解があるかに見えた恋人スチュワートの「ことなかれ主義」も、本が出版された後に露見する。

差別構造とは、マジョリティがことさら差別的言動をとらなくても、自分の階層の“お約束”から決してはみ出さないようにすることで強化されていくという事実が、彼らの姿から見えてくる。

メイドたちの体験エピソードを集めた『ヘルプ』というシンプルなタイトルの本は、エイビリーンやミニーにとってもスキーターにとっても、大きな賭けとなった。

メイドの言葉で語られた本が浮き上がらせるのは、別の角度から光を当てられた現実のなまなましい姿だ。それによって引き起こされる痛快極まりない出来事に、理不尽な仕返し。それらを、主体の側に立った結果として受け止めて歩いていくエイビリーンの背中が、強く心に刻まれる。

連載 : シネマの女は最後に微笑む
過去記事はこちら>>

文=大野左紀子

ForbesBrandVoice

人気記事