「健康のためのカレー」という原点回帰への挑戦

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そのカレーが日本に伝わったのは、明治時代初頭、国策として富国強兵を掲げていた時代でした。当時、兵隊になれば毎日白米を腹いっぱい食べられるというのが軍の大きな魅力であったものの、陸軍も海軍も「脚気」で大勢の死者を出していました。今となってはビタミンで解決できるものも、その頃は“不死の病”として恐れられていたのです。

そんな中、海軍軍医の高木兼寛が、白米中心で栄養バランスの偏った食事が原因だと気づき、脚気にかからなかったイギリス海軍の食を参考にして兵食を改善。麦飯を推奨し、日本で馴染みの薄かったカレーシチューを取り入れたところ、脚気が激減。それが、日本でカレーライスが普及したルーツと言われています。

また、これだけカレーが浸透したのは、その味に「甘味、塩味、酸味、苦味、うま味」の基本五味がバランス良く含まれているほか、刺激である辛味が食欲を誘うという味覚の妙もあります。さらに、「文明開化」の象徴である牛肉をはじめ、どんな肉や野菜も使えてアレンジがしやすく、白米に合うというも大きかったでしょう。

カレーの原点回帰に挑戦


その後、日本の給食にカレーが出たのは今から約80年前のこと。まだまだ短い歴史です。



しかし、海軍を病から救い、日本国民の健康を支えて広がったはずのカレーが、現在は、美味しさを重視するあまり、塩や砂糖や油が過度に使われたり、便利さを追求して食品添加物たっぷりのレトルト食品として流通するようになっています。

というわけで、僕は健康のためというカレーの原点回帰を考え、便利の代名詞であるコンビニとコラボレーションして「塩なしカレー」を開発。今年の3月、ナチュラルローソンで1万食限定で発売しました。ルーツを忘れて進化しすぎた現代の食文化に対する、ちょっとした提案です。

時間をかけて素材に熱を伝えることでその甘味を引き出し、UMAMIの相乗効果と薬味(スパイスとハーブ)をしっかり使用することで、塩を加えずに味を構成しました。肉も魚も野菜も、それ自体がミネラルを持っているため、それを活かせば塩はゼロ、または最小限に抑えることができるのです。そのルーに対して、スーパーフードと言われるキヌアや玄米を合わせました。

いわゆるカレーに求める刺激やインパクトには欠けますが、食べ進めるほどに味を感じられるようになり、雑穀を噛み締めるため唾液も出やすくて消化によく、満腹感も得られる。体に優しいカレーです。


(左から)ダールカレー、ココナッツカレー、グリーンカレー。ローソンとのコラボでは左の2種を応用

その後、一時は原宿のお店でも提供していましたが、コロナ禍により東京とフランスいずれに構えるお店も休業に。しかし、その間に研究を重ねることができました。いずれまた商品化・メニュー化する際のネーミングは「ガンディー」。イギリスの植民地支配や資本主義と闘い、インドの独立を勝ち取ったマハトマ・ガンディーへのオマージュです。

連載:喰い改めよ!!
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文=松嶋啓介

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