100年前のスペイン風邪での漢方医の活躍と、新型コロナに立ち向かう現代漢方の可能性

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「丸腰状態」日本の医療は何をしたのか?


100年前も今と同じく、丸腰状態の医療だった。

当時多くの医療現場でその頃主流だったアスピリンを大量に使用し、病状に対応していた。死因の一部には、その投与によりインフルエンザとの相互作用でライ症候群が発生し致死率が増えたとの疑いもあるとされている。

現在に置き換えると、インフルエンザ患者にボルタレン、ロキソニンなどの鎮痛剤(NSAIDsという鎮痛剤群)を投与すると、脳へのダメージが著しく「インフルエンザ脳症」を起こすと言われているのと同様かもしれない。

今の新型コロナ感染症も100年前と差がなく、ワクチンも特効薬もなければ、やる事は同じ「マスクの着用」「患者の隔離」の基本的な対策しかなかった。今も昔も同じ対策を余儀なくされたのである。

そんな中、あまり知られていないが、一人の漢方医の活躍をここでご紹介したい。

ある漢方医の献身的な活躍


当時の内閣府の資料では、漢方医療は治療の手段には含まれていなかった。また漢方医学は西洋医学重視の富国強兵時代に蚊帳の外に置かれ、細々と医療を続けていた。

そんな当時の医療の中で、一人の漢方医が多くの患者さんを助けていたという。

その漢方医とは森道伯(もり・どうはく)。彼は明治政府が制定した医師の国家資格を取得していなかったが、漢方の流派の一つ「一貫堂医学」の創始者で、数多くの臨床例や多くの後進を育てている。

漢方医である矢数格の著書『漢方一貫堂医学』(1964、医道の日本社)に森道伯の功績が紹介されている。

(以下引用)
「大正7年、遇々全世界を襲いし流行性感冒(インフルエンザ)は、わが国に於いても猖獗(しょうけつ)を極め死亡者日々に続出す。先生蘊奥を傾けて処方を按じ、病型を分かちて三種となし、胃腸病には「香蘇散加茯苓白朮半夏」を与え、肺炎型には投ずるに「小青竜湯加杏仁石膏」を以てし、脳症を発するものには「升麻葛根湯加白芷川芎細辛」を加減す。此の三方を以て治を施すや、其の卓効に驚きて、治を乞う者日に繁く、之を服して治せざるものなし。此処に於いて漢方医学の優秀なる所以て漸く世人の関心する処となる」

つまり、その時代に既に病状から、患者を「胃腸型」「肺炎型」「脳症型」と三つの主な症状に分類して、それぞれに適した形で漢方薬を構成し対応したのだ。

元々漢方医学は太古の昔から感染症との戦いの歴史で、体系化された医学でもあった。森道伯はその古(いにしえ)の知恵を当時のスペイン風邪に活かし、多くの患者を救ったのである。

感染症との戦いに今も漢方が生かされている。実際、現代医療の現場でも、インフルエンザの初期段階の高熱症状には「麻黄湯」という漢方薬がよく使われているが、今回の新型コロナ感染症の現場でも使用された実績がある。
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文=高田浩孝

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