空間コンピューティングを産業用途で活用
このサービスを導入した職場では、例えば、デジタルメモを現実空間上のあらゆる場所に貼り付けたりすることも可能に。誰もが閲覧し、書き換えられるメモを、現実空間には何の影響も及ぼさずに貼ることができます。
このようなシチュエーションを想像すると、空間コンピューティングが現実空間とデジタル空間をどのように融合させるか、それがライフスタイルやワークスタイルをどう変えるかについて、想像力が膨らむかと思います。
建設現場に業務支援ソリューションを提供する米国のTrimble社は、このパーソナルデバイス「HoloLens 2」を搭載したヘルメットを開発しています。近年建設現場でも、「BIM(Building Information Modeling)」と呼ばれる、建築物の3次元デジタル図面を用いた設計・工程管理が導入されていますが、Trimble社の開発したヘルメットを装着することで、完成壁面や配管などの図面データを、建設の現場に投影しながら、作業ができるようになります。アイトラッキングによる操作は、両手がふさがることも多い現場において、特に有効でしょう。
Microsoftの「Hololens」 出典:Chesnot/寄稿者/Getty Images
また、ヘッドセットに投影するコンテンツは、業務マニュアルや、遠隔にいる専門家が指導するような映像を映し出すこともできるため、空間コンピューティングによる効率化・高度化をはかれる可能性は、あらゆる業務にもあると言えます。
Microsoftは「HoloLens 2」の展開をこうした産業用途に明確に定め、業務支援ソリューションを導入しようとしています。さらに今年5月、Microsoftは「HoloLens 2」の5Gサポートを発表しました。空間コンピューティングが、5G時代のキラーアプリとなる未来が近づいてきたと言えるでしょう。
ただし、ヘッドセット型デバイスが、スマホに代わる未来のパーソナルデバイスとなるには、大きな障壁があります。それは価格です。「HoloLens 2」は1台3500米ドルと高価で、とても1人1台持てるような値段ではありません。「HoloLens 2」に限らず、他のヘッドセットも高価です。
ただし産業用途として十分に普及し、生産台数が増えれば、価格は下がっていくかもしれません。
さらに、クラウドの活用によっても、ヘッドセットが低価格化していく期待があります。先述した「Azure Spatial Anchors」はその名の通り、MicrosoftのクラウドサービスAzure上で稼働します。また「Azure Remote Rendering」は、クラウドコンピューティングによって「HoloLens 2」上にリアルタイムに3Dコンテンツを描画します。このようなクラウドサービスが、5Gで「HoloLens 2」に常時接続していれば、「HoloLens 2」自体の処理機構を簡素にできるようになるでしょう。
このように、5Gとクラウドによるヘッドセットの低価格化が進めば、それはパーソナルデバイスの未来となるかもしれません。
連載:5Gが拓く未来
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