答えは簡単だ。スウェーデンは感染が急拡大するなかで、徹底した外出制限などを行わず、マスクの着用も社会的距離(ソーシャルディスタンス)を取ることも奨励せず、厳格な対策を講じなかったからだ。政府は大学と高校については休校措置を取ったものの、公衆衛生に関して出されたその他の勧告に、強制力はなかった。
厳格な制限措置を講じないことで、経済への打撃を抑えることができるとみられていたスウェーデンの対応が、これほどの死者数につながるとは予想していなかったのだ。
だが、彼らは誤っていた。スウェーデン政府の主任疫学者、アンデルス・テグネルも、それを認めている。先ごろラジオ番組のインタビューに応じたテグネルは、「国がこのウイルスとの闘いにおいて、より良い対応を取ることができたのは明らかだ」と語った。
テグネルは特に、より早い段階からより広範に、検査を行っておくべきだったと考えている。また、高齢者の介護施設に入居する人たちを守るため、より多くの措置を講じるべきだったと語っている。スウェーデンではCOVID-19で死亡した人の半数以上が、こうした施設に入っていた高齢者だ。
経済的ダメージを抑えるためだったこうした方針は、多数の死者を出す一方で、期待した恩恵をもたらしていない。欧州委員会によると、スウェーデンの2020年の国内総生産(GDP)の成長率は、前年比マイナス6%となる見通しだ。より厳格な都市封鎖を実施した近隣のノルウェーやデンマークと、ほぼ同じ水準だ。
スウェーデン型の対策に近づく米国
スウェーデンの例は私たちに、ソーシャルディスタンスの確保を実践せず、流行を抑制するための賢明な措置を講じなかった場合に何が起きるかを教えてくれている。
感染拡大を抑制するための米国の措置は、すでに比較的緩和されたものになり始めた。そして、新たに確認される感染者は、1日当たり約2万人という状況がほぼ2カ月にわたって続いている。
スウェーデンに関するデータが示唆するのは、この次に起こり得ることだ。それは、加速度的な感染率の上昇と、それに続く死者数の増加だ。さらにその後に起きる可能性が高いのは、長期に及ぶ集会の制限や学校の再開の見送り、そして政府が国民を守る能力に対する人々の不信感の高まりだ。
トランプ政権はワクチン開発を推進する「Operation Warp Speed(ワープ・スピード作戦)」を開始した。だが、流行拡大の抑制に効果があると分かっている公衆衛生対策ではなく、ワクチンにすべての期待をかけることができるのかどうかについては、疑問を持たざるを得ない。
予備データをみる限り、私たちはワクチンに明るい希望を持ちすぎだと考えられる。開発が進められているワクチンは、一部の人に限定的な免疫をもたらすものにとどまる可能性が高いとみられる。また、新しいワクチンには新しいリスクと、安全性に関する不安が伴う。
ワクチンに根拠のない希望を持ち、公衆衛生のための対策として行ってきた措置を緩和しようとするなら、スウェーデンのアプローチで私たちは何をリスクにさらすことになるのか、つまり、私たちの生活と経済、そして子供たちにどのような影響を及ぼすことになるのか、一人ひとりがよく考えてみる必要がある。