6月3日にトランプ陣営がSNSに投稿した動画は、5月末のスペースXによる宇宙船クルードラゴンの打ち上げの、歴史的偉業を讃える内容だった。
この動画には、1969年のアポロ11号の月面着陸や1962年のジョン・F・ケネディ元米国大統領の歴史的演説の模様などが引用されており、トランプが2018年のスピーチで「我々は今、米国の宇宙探査における偉大な第2章に向けて歩み始めた」と宣言した瞬間の映像も収められていた。
しかし、この動画のNASAとスペースXの映像は正式な使用許諾を得ていなかったようだ。NASAは、宇宙飛行士などの映像を広告やマーケティング目的で使用することを許しておらず、スペースXがイーロン・マスクCEOやスタッフの映像の使用許諾を出したかどうかも定かではない。
NASAの規定には「当局は政府機関として、NASAが権利を有する素材の商用目的での使用や、サービスや特定の活動の告知への利用を許諾しない」との文言がある。
今回のトランプ陣営による動画は6月4日、全ての公式チャンネルから削除された。しかし、他の人々が再アップロードを行った結果、今でも様々な経路から視聴可能になっている。
2009年から2013年までNASAの副管理者を務めたLori Garverは、映像が「不正な政治的利用をされた」と強く非難した。「宇宙の映像を人々の心を癒やすために用いてもいいが、国を分裂させる目的で使用してはならない」と彼女はツイッターに投稿した。
問題の動画には、スペースXの打ち上げに参加した宇宙飛行士のDoug HurleyとBob Behnkenらが発射台に向かい、家族に別れを告げる場面も含まれていた。しかし、Hurleyの妻で元宇宙飛行士のKaren Nybergも、強い不快感を表明した。
「自分の手柄」として宣伝するトランプ
「私や私の息子の映像が、許可なく政治的プロパガンダで使用されることに強い憤りを感じる。これはあってはならないことだ」と彼女は投稿した。
動画に抗議する人々は、署名サイトの「change.org」でトランプ陣営に対し、動画の掲載中止を呼びかけた。
トランプ陣営の広報担当は、その後のブルームバーグの取材に、問題の動画は一般的に入手可能な映像素材を用いて制作されたと弁明した。しかし、NASAの広報担当はこの映像が一般公開されていることを認識していなかったと述べている。
動画は既に削除済みであり、騒ぎがこれ以上に拡大する恐れはない。しかし、トランプが今回の動画で、自分の虚偽の手柄を宣伝するために、歴史を書き換えようとしていたことは指摘しておくべきだ。
「我々は、誰もが成し遂げられなかった偉大なプラットフォームを設立しようとしている」とトランプは動画で述べていた。しかし、スペースXのクルードラゴンを成功に導いたののはトランプではなく、彼の2人の前任者たちだ。
2004年にブッシュ元大統領は、米国の宇宙探査計画の指針である「Vision for Space Exploration(宇宙開発へのビジョン)」を発表し、ISSへの宇宙飛行士の輸送や宇宙探査に用いる宇宙船の開発計画を発表した。
そして、2010年にオバマ元大統領が始動したプログラムがスペースXに資金を提供し、クルードラゴンを開発し、先日の歴史的な有人宇宙飛行につながったのだ。