このコミックの中から、3ページのセリフをピックアップして紹介しよう。カルボネッティは印象派のスタイルを取り入れて、この話の舞台となったあの熱狂的な10年間を描き出している。
ジョンとジョージとリンゴが、ポールの死亡した痛ましい自動車事故が起きた現場を捜査しはじめると、読者は『サージェント・ペパー・ソング』のサイケデリックな宇宙に放り込まれたような気分になるはずだ。
(Image Comics)
「このあたりに、事件の目撃者はいないか?」
(Image Comics)
「警官と救急隊が到着したのを見ているはずだ。近所の住民に話を聞こう」
「当局が何を考えているのか理解できない。ブライアンが言っていたとおり“国家安全保障上の問題”なんだろう」
「やつらは車と遺体を片付けた」
(Image Comics)
「そうだな、このニュースを外に漏らすわけにはいかない。少なくとも、実際に起きたことを我々が突き止めるまでは」
「ああ。世間は彼が自殺したと思うかもしれないが……」
「とにかく、ここにスリップ痕はない。あいつはブレーキをまったく踏まないままクラッシュした」
この3ページを読んだだけでも、ビートルズを描いたこのコミックが一日で売り切れ、陰謀説の謎が一晩で解決してしまうのではないかと考えても不思議はない。それほどにも素晴らしい内容だ。
「私たちが描いたのは史上最高のバンドだ。このコミックは読者を、バンドが音楽史上、最も重要なアルバム(『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』)を録音中のアビーロード・スタジオへのツアーへいざなう」カルボネッティはそうインタビューで語っている。
「私たちは60年代のスタジオを当時のとおりに再現した。レコーディングルームや楽器、服装なども同じだ。そうすることで見る者にサイケデリックな体験をもたらし、ビートルズがセッションや日常生活をどう過ごしていたかを目にする機会を与えることにもなる。しかもこの作品は60年代ロンドンの独特の雰囲気のなかで、行方不明になった友人を探す探偵物語でもある」