例えば、コスメ業界では、美容部員やスタッフによる“タッチアップ”がタブーになりつつある。タッチアップとは、顧客に実際にメイクを施して購入を促す接客手法だが、近距離に接近したり、肌に触れることが前提となるため、感染防止の観点から自粛される傾向にある。これは世界各地で起こっている現象で、「日本でも例外ではない」とコスメ業界関係者は話す。
しかし、タッチアップは顧客の体験価値を高め、エンゲージメントを得るためには欠かせないものでもある。そこで、各ブランドは同タスクをデジタルに移行しようとにわかに動き始めている。
米国のカスタムスキンケアブランドMIMEは先月、人工知能(AI)をベースにした「ファンデーション・シェイド・ファインダー」というサービスをリリースした。顧客がアプリをダウンロードしてセルフィーを撮影すると、AIが肌に最も合う色を自動で提示してくれるというものだ。MIMEはサービスリリースに先立ち、過去2年間にわたりメイクや画像研究を行う専門家たちと共同で研究・開発を行ってきたという。
MIME側は、同サービスを利用することで、タッチアップやサンプルが不要になり、新型コロナウイルスの拡散防止にも寄与するだろうと説明している。コロナ禍以前から開発を続けてきたものの、昨今の状況を鑑みて新たな施策として仕掛けてきたと予想できる。
ここ数年、デジタル上でメイクを仮想体験できる「ARメイク」などテックサービスは、日進月歩で成長を遂げている。有力なベンダーは世界に数社だが、世界各地のブランドやECがこぞって彼らの技術を取り入れ始めている。スマートフォンアプリからECへの誘導だけでなく、店頭に端末を置いて集客・店舗への導線に使うという用途も増えてきた。今後、AIによるパーソナライズ能力がさらに精密になれば、店舗にとっても強力なツールや施策の選択肢となっていくことは間違いないだろう。
コスメ業界に限らず、スタッフとのコミュニケーションによって顧客が得る体験価値については、引き続き議論されてしかるべきだとは思う。しかしながら、コロナ禍はそれ以前には決して戻れない大きな消費行動の変化を促す。リアルのコミュニケーションや接客をデジタル的に代替する施策が次々と考えだされ、AIはそこで新たなユースケースを確立していくはずだ。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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