ビジネス

2020.06.08

海外IRはCEOたちの経営道場

J.フロント リテイリング取締役兼代表執行役社長 山本良一

その場を訪れた者でなければ知り得ないTipsがある。海外機関投資家との激しい壁打ちから見えてくる。今回は、J.フロント リテイリングの山本良一に経営の姿を聞く。


──アメリカ・カナダのロードショーから帰国されたばかりと伺いました。

カナダもアメリカ、欧州、アジアなどと変わらず、海外投資家が日本株への投資に慎重な見方をしているというのが正直な印象です。一方、ESGへの関心は非常に高まっている。直近1~2年はESG、特に環境に対する取り組みについて、質問が集中しています。ガバナンスに関しても然りですね。

──御社ではその意図を汲み、実際にお取り組みされていますね。

弊社の社是は「先義後利」。当然経営なので利益は求められますが、その原点は「義」なのです。つまり、先に社会貢献がある。そういう意味において私たちはESGをかねてから行っていたとも言えます。ただ、海外投資家の意見を聞いて、さらにコストをかけてでもガバナンス体制を整え、環境問題についても取り組まなければいけないと感じています。ガバナンス体制強化については、指名委員会等設置会社を採用。経営判断の迅速化・経営責任の明確化をはかるため、事業子会社の業務執行事項について、各子会社に権限委任しました。さらに、取締役の約半数を社外取締役にしました。

また、環境問題については、2019年9月にリニューアルオープンした大丸心斎橋店本店では、使用する電力を100%再生エネルギーで調達し、社用車も電気自動車に切り替えました。衣服や靴、布団などをリサイクル・リユースする活動「エコフ」に関しても、お客様から「次はいつやるのか?」という問い合わせがあり、これまでどう処理したらいいかわからなかった意識の高いお客様のために新たな市場をつくり出すことができたと自負しています。

──他に海外でのIRを通じ、日本ならではの課題感は見えてきましたか。

海外投資家は経営者への信頼感がどれくらいあるか見ているという話も耳にしますが、私は経営者というよりコミュニケーションギャップの問題が大きいと思います。例えばESGに真面目に取り組んでいる日本企業は多いものの、海外投資家にはほとんど認知されていません。何らかの形で発信しない限り、コミュニケーションギャップは生まれる。それが日本企業の最大の弱さではないでしょうか。

ビッグピクチャーをわかりやすく伝える


──海外機関投資家と会う際、気をつけていることは。

大きく4つあります。1つは経営者としての熱い思いをどれだけ伝えられるか。ロードショーの場では経営者の人となりや思いを伝え切ることが重要です。その際、相手の目を見て己の経営ポリシーをしっかりと突きつけること。初めて海外のロードショーに行ったとき、最初に面談した投資家から「あなたの経営哲学を説明してください」と問われ、答えに窮したことがある。そこから自分の経営ポリシーを腹に据えて話さなければと思うようになりました。

2つ目は将来のビッグピクチャーを語ること。ビッグピクチャーというのは、ビジョンや戦略、新しいビジネスモデルなどを指します。私は10年先をひとつの起点とし、当社にはまだ成長余力があり、こんなビッグピクチャーがあると説明しています。ここにはサクセッションプランや人材育成も含まれます。10年先のピクチャーを実現できる体制が将来あるのかも投資家はしっかりと見ています。そのため、私たちは指名委員会をつくり、次期経営人材を育てるための経営塾を立ち上げ、私自身も参加していると伝えると、安心してもらえる。
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文=谷本有香・筒井智子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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