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スカパーJSATで「デブリ除去プロジェクト」を率いる福島忠徳

有人宇宙船を民間企業が打ち上げ、国際宇宙ステーションにドッキングさせる──米スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)が世界で初めて成し遂げた快挙は、スペースシャトル計画が相次ぐ事故で打ち切られた後、9年にもわたって続いた米国の有人宇宙飛行の停滞を打ち破った。

スペースXを率いるイーロン・マスクは電気自動車大手テスラの創業者。宇宙への挑戦は一見、畑違いにも思えるが、テクノロジーのエッジを極める企業が宇宙に眼を向けることは、実は決して珍しくない。スペースXと長い取引関係にあり、同社のロケットで日本企業として初めて通信衛星を打ち上げたスカパーJSATもまた、最先端のテクノロジーで宇宙の難題を解決しようと取り組んでいる。

「スカパー!」ブランドで手掛ける衛星放送事業でよく知られる同社は、通信衛星事業で世界5位・アジア最大手という日本の宇宙ビジネスのパイオニアでもあるのだ。

通信衛星として使用されていた米国のイリジウム33号と、すでに運用を終えていたロシアの軍事衛星コスモス2251号が、シベリア北部上空約780キロの宇宙空間で激突したのは2009年2月のこと。人類の宇宙開発史上、ドッキング実験の失敗などを除くと、衛星本体どうしの衝突はこれが初めてだった。

「象徴的な事故でしたね。宇宙は広いと思われがちですが、人工衛星に限っていえば、そんなことはありません。軌道上にはスペースデブリ、つまり宇宙ごみが数多く存在していて、小さなデブリが衝突して衛星が運用停止に追い込まれる事例は、それまでにもたくさん起きていました。2009年の事故ではデブリがロシアの衛星で大きく、しかもアメリカの衛星の方は我々と同じ通信衛星事業者が運用中のものでしたから、『宇宙は本当に危ないんだ!』と、あらためて痛感しました」

そう語るのはスカパーJSATで「デブリ除去プロジェクト」を率いる福島忠徳だ。14年にわたって衛星の運用に携わり、同社がスペースXのファルコン9型ロケットで最初に打ち上げた通信衛星も担当した。ちなみに、このときの打ち上げはファルコン9型の1段目が地上に戻ることに初めて成功した歴史的なミッションだった。

その福島によれば、1957年に世界初の人工衛星スプートニク1号が打ち上げられてから60年以上を経た今、宇宙空間は実のところデブリだらけだという。

「スペースデブリには、運用停止となって使われなくなった衛星もあれば、事故や故障で発生した衛星の破片もあります。地上からのミサイル攻撃実験で破壊された衛星の破片などというものまであって、そういったデブリがぶつかったせいで運用できなくなった衛星もあるほど。さらに、新しく打ち上げられた衛星が非常に活発化していますので、危険度はどんどん上がっています」

地球の衛星軌道上にあるスペースデブリの速度は高度によって異なるが、衛星の多い高度800キロメートル帯では秒速約7.5キロメートル前後。衝突したときの衝撃のエネルギー量は、わずか数ミリメートルの破片でも、ボウリングのボールが時速100キロメートルで衝突したときと同じレベルになる。

移動する物体のエネルギー量は速さの2乗に比例する。そのため、軽量でも数百キログラム、重量級なら1トンを超える人工衛星どうしの接触となると、その衝撃はまさに破壊的。冒頭で紹介した衝突事故では、米ロの衛星はいずれも原型を残すことなく破壊され、スペースデブリが観測できるサイズのもので2,200個以上も発生したとされ、報告されている。

スカパーJSATは世界で初めてスペースデブリをレーザーで除去する衛星を設計・開発に着手した。

スペースデブリ問題は、ビジネスにも「宇宙のSDGs」にも値する


「このまま放置しておけば、スペースデブリのリスクは背負いきれないものになる」。現状についてそうした危惧を抱いた福島は、スペースデブリとなった衛星などの除去を事業化することを狙って調査を進め、2018年、スカパーJSAT社内で始まったスタートアップ募集に有志とともに応募。これが採用され、1年間にわたって事業性と技術の両面でのフィージビリティー・スタディー(FS)を行った結果、「デブリ除去プロジェクト」が発足することが決まった。

「当社はこれまで衛星の運用でもスペースデブリを出さないように事業を進めてきましたが、宇宙がデブリによって利用しづらくなってくるのは明らかです。スペースデブリ問題は宇宙の環境問題と捉えることもできる。本プロジェクトを通じて持続可能な宇宙環境維持に貢献すること、これは“宇宙のSDGs”とも位置付けています」

福島は、「長きにわたって宇宙を活用してきた我々スカパーJSATこそ、このデブリ問題に取り組む意義がある」とし、さらに続ける。

「しかも、環境問題への対応だけにとどらまず、ビジネスとしても成り立たせることによって初めて、スペースデブリの問題は本当に解決できるのだと考えています。ビジネスと宇宙のSDGs、その両面を同時に進めるということで会社もOKしてくれました」

スペースデブリの除去が事業であれ社会貢献であれ、基盤となるのはデブリを取り除くためのキーテクノロジーだ。この基幹技術として福島たちはレーザーアブレーションを選んだ。レーザーアブレーションとは、レーザー光線によって物質を“焼く”(プラズマ化させる)こと。スペースデブリとなった衛星に除去衛星からレーザーを当てて表面のごく一部を燃やし、これを燃料とする小さなロケットエンジンを生み出して、デブリを軌道から外す……そんなイメージだ。

このレーザーアブレーションの最大の利点は、福島によると、「スペースデブリそのものに接触する必要がない」こと。スペースデブリの除去をめぐっては世界中でさまざまな取り組みが進んでいるが、その多くは専用衛星からアームを伸ばして捕獲したり、デブリの側に「捕獲されやすくなる機構」を設置したりするなど、デブリとの接触を前提とする。

だが、除去専用衛星とスペースデブリとの距離をゼロまで縮めるためのコントロールは難度が高い上に、回転していることが多いデブリは安全に接触するのが難しい存在だ。一方、レーザーの場合、ある程度の距離を保ったまま照射するため、そこまで高度な制御は必要とされず、回転しているデブリにも対応しやすい。また、デブリ自身がアブレーションによって燃料となるため、デブリを移動させるための燃料を除去衛星が保持する必要がないことも、コストの面で有利だという。

もうひとつ、レーザーの照射に必要なエネルギーが小さいこともメリットになる。福島は、「我々が使うレーザーは美容医療で皮膚のシミ取りに使われるようなタイプのもの。美容レーザーを受けたときにチクッとする程度の小さな出力ですが、繰り返し照射することでゆっくりと安全に衛星を動かすことができる。SF映画に出てくるような、大出力のレーザーを照射して宇宙機を爆発させる兵器とはまったく違うコンセプトです」と明かす。


非接触でスペースデブリを除去するイメージ図

デブリ除去プロジェクトの“ドリームチーム”


このような独自の発想にもとづくスカパーJSATのデブリ除去プロジェクトには現在、プロジェクトリーダーの福島をはじめとする社内の5人が参画している。福島と同じような通信・放送衛星の運用経験者のほか、人工衛星の開発の知見を持つ社員や大学院でデブリの研究をしてきた新人などが加わった。

だが、プロジェクトのチームはこれだけにとどまらない。理化学研究所(理研)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、名古屋大学に九州大学。こうした高等研究機関が、スペースデブリ除去を可能とするさまざまな技術の開発をサポートしている。その実像を、福島は次のように示す。

「スペースデブリをレーザーで除去する可能性について論文を書かれた先生方が理研にいらして、これを読んで相談に行ったのがプロジェクトのそもそもの始まりです。今は衛星搭載用のレーザーサブシステムを開発するために、スカパーJSATと理研の混成チームが理研内にできて、研究開発を一緒にやらせていただいています」

「JAXAとは、J-SPARCという枠組みを活用して連携しています。スカパーJSATが設計・開発するデブリ除去衛星を成立させるため、衛星のシステム検討をJAXAと共同で実施しています」

さらに、名大工学研究科の佐宗章弘教授とは、スペースデブリに推力を生むためのレーザー照射について、九大工学研究院の花田俊哉教授とは、ターゲットとなる衛星の回転運動について、それぞれ共同研究を推進している。いずれもそれぞれの分野で実績を積んできた研究機関・研究者であり、スカパーJSATのデブリ除去プロジェクトは“ドリームチーム”によって進められていると言ってもいい。

プロジェクトは現在、スペースデブリ除去衛星の開発フェーズにあり、レーザー関連機器と衛星の設計は2022年度までに完了する計画。その後2~3年で実証機を製造して実際に打ち上げての実証試験を行った後、26年度にデブリ除去のサービスインを目指している。福島は語る。

「ずいぶん先の話のように思われるかもしれませんが、宇宙開発は長くかかってしまうもので、これでもけっこうスピーディーなスケジュール。ただ、スペースデブリのリスクは年々高まる一方なので、予定どおりのサービスインを目指して、ものすごく頑張っています」

レーザーによる非接触式除去という独自性の高いテクノロジーで取り組むデブリ除去プロジェクト。それは1989年に日本の民間企業として初めて通信衛星を打ち上げて以来、「30年以上にわたって宇宙を使わせてもらってきた」(福島)スカパーJSATによる宇宙への“恩返し”でもある。


Promoted by スカパーJSAT / Photograph by 吉澤健太 / Text by 岡田浩之

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