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2020.06.10 18:30

情報の標準化から考える、ポストコロナ時代の移動と自由

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緊急事態宣言が解除され、2カ月近い自粛生活から解放され誰もが感じるのは、人間の自由には、自分の意志でどこにでも行って誰にでも会えるということが大きな前提になっているということだろう。欧米では新型コロナ感染拡大を防ぐためのロックダウンが、人間の自由を制限するものだと主張する武装デモまで起こっており、移動の自由は基本的人権だと主張する声も上がっている。

サイズを変えて行き来できなくした鉄道


文明国家ができてからというもの、原始社会のようにどこにでも行くことは難しくなり、国や領土の境を超えて移動するには国が身分保証してくれるパスポートやビザ、手形のような証明書が必要となった。

現在はグローバル化が進み、人と富の移動が世界を良くするという理想が当然のように語られているが、コロナの被害によって国境は封鎖され、その前提が揺らいだ世界で人々は迷っている。

20世紀の2つの大戦は地球規模の移動を加速することになり、国際金融システムがオンライン化した1970年代以降、全世界規模の動きを指す「グローバル化」という言葉は市民権を得た。しかし1990年代のソ連邦の崩壊によって冷戦が終わると、それが実質的にはアメリカ中心の情報化を指すようになった。

近代におけるグローバル化の萌芽は、産業革命による大量生産と植民地への市場開拓や高速な交通機関の出現に見ることができる。1830年にはイギリスでスチーブンソンの蒸気機関車ロケット号が走り始め、鉄道網が整備されることで、馬車を持てない一般庶民も移動することが可能になり、トーマス・クックが旅行代理店を始め、誰もが貴族のように世界中を旅行することが可能になっていった。

鉄道には車両として馬車を転用していた経緯もあり、イギリスでは左右のレールの間隔(ゲージ)は馬車と同じ1435mm(4フィート8.5インチ)になった。その後はいろいろなサイズのものも作られたが、イギリス方式がまず世界に普及したことから、これを標準軌と呼ぶようになる。

当時の馬車は古代ローマの2輪馬車をそのまま受け継いでおり、標準軌はその遺産を引継いだことになる。イギリス方式を採用したアメリカでは、スペースシャトルのブースターロケット輸送にトラックが使えず鉄道で運ぶしかなかったが、標準軌に合わせてロケットのサイズを小さくせざるを得ず、古代ローマの遺産が宇宙時代に影響したと話題になった。

ロシアでは、ナポレオン戦争の経験から欧州の侵略を恐れ、鉄道の普及によってイギリス方式の鉄道がそのまま自国に延長されないよう、わざわざ幅広の別基準を決めて、国境からは違う車幅の列車でなければ入れないようにした。そしてその争いは極東にまで及ぶ。

清朝の中国を欧州各国と奪い合ったロシアは、ヨーロッパ勢力に対抗しようと、1891年には東端の港ウラジオストクまでシベリア鉄道を敷くことに着手する。船で月単位かかった移動は週単位に縮まり、大量の人や物資の移動が迅速に行えるようになったことで、ロシアの極東への支配力は格段に向上した。

さらに両陣営は内陸進出のために鉄道をひいたが、イギリス方式とロシア方式の普及した地域が両国の勢力地図そのものとなった。覇権拡大としてのグローバル化の過程では、拮抗する勢力が自分の方式で世界を統一しようとするが、異なった方式が世界を分断してしまうことで、却って世界は混乱することになる。
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文=服部 桂

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