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「I have a dream」から見えた変わらない社会の闇


題名にもなっている「I have a dream」から始まる一節が有名だが、実はこれは演説の終盤で出てくるフレーズ。キング牧師は、冒頭で100年以上前の奴隷解放宣言をあげて演説を始めている。

黒人差別反対、デモ、アメリカ
腕を組んだ人々には笑顔も見られる。平和なデモだが、多くの人が集まればその影響力は大きい(Getty Images)

「100年前、ある偉大な米国民が、奴隷解放宣言に署名した。今われわれは、その人を象徴する坐像の前に立っている。この極めて重大な布告は、容赦のない不正義の炎に焼かれていた何百万もの黒人奴隷たちに、大きな希望の光明として訪れた。それは、捕らわれの身にあった彼らの長い夜に終止符を打つ、喜びに満ちた夜明けとして訪れたのだった。しかし100年を経た今日、黒人は依然として自由ではない」

奴隷解放宣言を行った元大統領アブラハム・リンカーンの巨大な記念像を前に、彼に敬意を評しての言葉だったのだろうか。今、キング牧師の言葉を引用して黒人差別について訴えている人々を見ると、50年前から現在にいたるまで差別がなくなっていないことを痛感させられる。

冒頭で紹介した言葉以外にも、今の状況と繋がる言葉を多く見つけることができる。

「この緊急事態を見過ごせば、この国にとって致命的となるであろう。黒人たちの正当な不満に満ちたこの酷暑の夏は、自由と平等の爽快な秋が到来しない限り、終わることがない。1963年は、終わりではなく始まりである」

このワシントン大行進は、公民権運動として行われたものだ。その後、1964年7月にリンドン・ジョンソン元大統領によって公民権法が制定され、選挙権や教育の場での人種差別をなくす内容が盛り込まれた。法律の制定は確かな前進だったが、社会の黒人に対する目が変わらなかったのは今の現状をみても明らかだろう。

黒人差別、デモ、アメリカ
近年のデモの様子。最前列右から2人目の男性はキング牧師の息子だ(Getty Images)

非暴力の抗議活動を呼びかけノーベル賞を受賞


現在、路上での抗議活動が続いているアメリカでは、一部のデモ参加者による店舗からの略奪や信号機などを破壊する行為が起きている。また、デモ参加者による火炎瓶の使用やそれに対抗する警察のゴム弾の発射などで、抗議活動によって街の治安が悪化してしまった。

これらの光景は、50年前にも見られたものだ。マハトマ・ガンジーの非暴力の教えに共感したキング牧師は、暴力を用いない抗議活動の力を強く信じていたという。彼は、公民権運動を主導する中で何度も逮捕、拘留されたのだが、留置所から書かれた手紙には

「いかなる場所の不正も、あらゆる場所の公正への脅威となる」

と書かれていたそうだ。肌の色の違いだけで不当な扱いを受け続け、どれだけ悔しい思いをしてきたのだろう。そんな中でも、正しさと知性で人々をリードしてきた牧師の人柄がうかがえる。非暴力を掲げたキング牧師の考え方に反対する人々もいたが、演説の中でもその精神は語られていた。

「正当な居場所を確保する過程で、われわれは不正な行為を犯してはならない。われわれは、敵意と憎悪の杯を干すことによって、自由への渇きをいやそうとしないようにしよう。(中略)信じがたい新たな闘志が黒人社会全体を包み込んでいるが、それがすべての白人に対する不信につながることがあってはならない」

キング牧師、デモ
前列左から2番目に写っているのがキング牧師

ワシントン大行進が行われた翌年の1964年に非暴力の大規模デモを主導したとしてキング牧師は、ノーベル平和賞を授与されている。このデモには、黒人差別に反対する様々な人種の人が参加した。現在でも言われていることだが、これは黒人と白人の戦いではなく、「差別を許す人」と「差別を許さない人」の戦いなのだ。抗議活動がさらなるヘイトを生まないよう呼びかけたキング牧師の思いは、今の世代にも多くの人に受け継がれている。

文=田中舞子

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