最近では、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅが検察庁法の改正をめぐり「#検察庁法改正案に抗議します」とハッシュタグを付けてツイートするなど、芸能人による政治的な意思表明が話題となった。黒人差別への抗議活動が活発化するアメリカ発の「#BlackLivesMatter」でも同様な動きが見られる。ソーシャルメディア上で政治的な発言をする芸能人らに対しては賞賛が集まる一方、「何も分かってないくせに」「芸能人の政治的主張なんて無意味」といった趣旨の、冷笑的な批判も多くみられた。
現代のソーシャルメディア上に蔓延している冷笑的空気は、一般には「シニシズム=冷笑主義」と呼ばれている。シニシズムとは、なにごとにも斜に構え、世間の生活を嘲笑し罵倒するかのような態度を指す。
社会的な通念から距離を取り、みだりに確たる根拠のない考えに惑わされないという側面からみれば、シニシズムも一概に悪いとはいえないと思うかも知れない。メディアがもたらすスペクタクルに翻弄され、社会の空気に「右向け右」式に流されるのが仮に大衆の特徴なのだとしたら尚更だ。
しかし歴史を振り返ってみれば、政治に対する冷笑的な態度は悲惨な結末を招いたことがわかる。現代のソーシャルメディア上に蔓延する冷笑は、本質的にどのような問題をはらんでいるのだろうか。政治や社会に対するシニシズムの問題点について考えてみたい。
冷笑系のインターネット・ミーム「正義の暴走」論の誤り
「冷笑系」のアカウントが好んで用いるインターネット・ミームに「正義の暴走」というものがある。
「人が最も残虐になるときは『悪に染まった』ときではない! 真偽どうあれ『正義の側に立った』と思ったときに人は加虐のブレーキが壊れるのだ! 何せ『自分は正しい』という免罪符を手に入れてしまうのだからな! 正義という名の棍棒で、悪と見なした者の頭を打ちのめす快楽に溺れてしまうものよ!」
磨伸映一郎の4コマ漫画『氷室の天地 Fate/school life』から引用されたこの1コマは、ソーシャルメディア上で政治的主張を熱心に行う人びとへのシニカルな反応として用いられている。投稿には「本当に怖いのは、悪いことをする人ではなく、自分がやっていることが正義であると信じて疑わない人」などの趣旨のコメントが添えらていることも多い。