スウェーデンから長年環境問題について発信している環境ジャーナリストの高見幸子氏に、同じく在スウェーデンのスウェーデン語文学翻訳者でエッセイストの久山葉子氏が話を聞いた。今回はその前編。
後編:温暖化で人は即死しない、が━。コロナとの共存と「気候正義」
人類にとっての真の危機はコロナではない
『Skavlan』スウェーデン公共放送 2020年5月15日
久山:高見さんに勧められて、アメリカの進化生物学者ジャレド・ダイアモンド教授が出演したスウェーデンのトークショー番組『スカヴラン』を観ました。2018年には伊藤詩織さんも登場した、非常に定評のある番組ですよね。その中で、ダイアモンド教授は、「コロナは、人類が直面している生存の脅威に比べるとささいなものだ」と語っていました。
高見:そうですね。短期間で死亡する場合があるという点でコロナは恐ろしいですが、世界77億人の人口のうちパンデミックで2%死亡したとしても、75億4600万人が生き残ることになります。それよりも、「人類が絶滅する可能性をはらむ危機は、他に4つもある。1. 核戦争、2. 気候変動、3. 資源の枯渇(魚、森林、きれいな水など)4. 世界の不平等だ」というお話でした。
ダイアモンド教授は、「コロナ危機を解決した後は、これらの危機を解決していなければならない」とも力説していました。「今回のパンデミックで世界が学んだことは、皆が同じ問題を抱え、同じ船に乗っていることを認識ができたこと。お互いに助け合わなければならないこと」だとも。
久山:確かに、全世界が同じひとつの脅威と闘うという構図は初めて見ました。ただ「全世界で一丸となって」というよりは、まだ今は「各国が自国の問題だけで必死」という印象です。
高見:実は、全世界はこれまでもずっと「同じひとつの脅威」にさらされていたんですよ。それは、人類の生存がかかっている環境問題という危機です。ただし、コロナほど皆が環境問題に関心があったかというと、そうではありませんよね。ダイアモンド教授は「コロナとちがってすぐに死ぬわけではないから、人々は環境問題にはなかなか関心を持たない」と分析しています。それこそ「全世界で一丸となって」取り組まなければいけない問題のはずなのですが。
新型コロナと環境破壊は因果関係にある
高見:そもそも、新型コロナウイルスと環境問題には関係があります。パンデミックと自然の多様性・気候変動はつながっているんです。
今回のようなパンデミックは、突然天から降ってきたわけではなく、10年も前から科学者やWWFなどの環境NGOが警告を発していました。スウェーデン・ウプサラ大学の感染症教授ビョルン・オルセン教授もその一人です。