「届けたい人に届かない」日本での食料支援の壁、コロナ禍で浮き彫りに

新型コロナで社会格差は広がった。明日の食事を求め、支援を頼る人は日本でも増えている。(Shutterstock)


法律の制定で生じる食料サイクルのジレンマ


日本では、年間600万トン以上もの食品がまだ食べられる状態で捨てられている。これは1人当たりに換算すると約54キロ、1年分の米の消費量と同じだ。これらの食品ロスを減らすため、消費者庁は2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律」を施行。この法律では、食品ロスに対する国民の問題意識を喚起するとともに、まだ食べられる食品が廃棄されないようにするための社会的な取り組みの強化を目指している。

これまで企業は生産過程のミスなどで売れない商品を廃棄することが多く、その中で安全に食べられるものを食料支援として団体に寄付することが多かった。しかし、法律の制定により企業側が今まで廃棄していた商品を第3市場であるディスカウントショップやオンラインショップに売り出す傾向が強まり、支援に回ってくる食料が減ってしまう懸念がある。

その影響で、寄贈される食品には、第3市場でも売ることのできない業務用の食品が増えてきた。業務用の食品自体に問題がなくても、箱単位で管理され個別の成分表示が記載されていない場合がある。食堂で調理して提供する場合は、箱に記載された栄養表示をみて調理師が判断できるが、パッケージに記載がなければ安全上の問題で個人に配ることができないのだ。

「ある会社のブランドでは割引には出さないというルールがあったが、(法律の制定によって)食料廃棄の削減になるならいいだろうという風潮に変わってきた。結果として、支援に回ってくる寄贈が減ったというわけです」とチャールズは語る。

確かに、俯瞰してみれば、食品廃棄の削減や新たな使い道に企業の目が向いたという点はいいことだ。しかし、支援物資が減ったという声を聞くと食料サイクルのジレンマを感じる。

あくまで対等な企業とのパートナーシップ


苦しい状況でも支援を続けてくれる企業もいる。コロナ禍では大手スーパーマーケットの西友やユニバーサルエンターテインメントから、米などの主食をはじめ多くの食材が寄付されてきた。2002年の活動開始時にはわずか3団体だった支援企業も、今では1800以上に増えた。これだけ多くの企業から支援される背景には、セカンドハーベスト・ジャパン流の「対等な関係を重視するパートナーシップ」の考え方がある。

「私たちは、食品を寄付してくださいと頭を下げて企業を回るようなことはしません。食品の寄付のお願いではなく、まずは食料支援の活動を知っていただき信頼関係を築いてから寄付をしていただきます。ある会社ではパートナーシップを結ぶのに10年もかかりましたが、それは全く無駄ではなく必要な時間だったと考えています」。NPO法人でありながらも企業同士のような対等な関係を求めるからこそ、信頼が築かれ、長期的な支援が実現しているのだ。

企業パートナー、握手
企業とNPOのパートナー関係も日本と海外では大きな違いがある

チャールズは日本での食料支援や寄付に対する考え方から変わってほしいと主張する。

「正直、NPO法人というと日本の企業から正しく理解されず、怪しいイメージも持たれるなど、評判が低いんです。この活動を拡大させるためには、一般の人たちが食料支援のサービスの必要性や重要性を理解してくれないといつまでも広がりません」

現在、寄付の7割は外資系企業から入ってきている。支援をする企業は寄付とは言え、「社会に投資する」イメージを持っているという。昨今はSDGsなど三方よしの経営が注目されているにも関わらず、日本の企業では海外と比べるとまだソーシャルグッドの意識が浸透していないのだろうか。

ニューヨークや香港など大都市に比べ、東京では無償で食料を受け取れるフードパントリーなどが少ない。日本は裕福な国だと感じる人も多いかもしれないが、社会の貧困化は目に見えにくい。食料のセーフティネットとも呼ばれる食料支援は、今後も需要が高まるだろう。

文=田中舞子

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