VWは6月2日、アルゴAIに対して26億ドル(約2800億円)の出資を行ったと発表した。VWは同社傘下で自律走行車を開発する子会社のAID(Autonomous Intelligent Driving)の事業をアルゴAIに吸収させる。
ミュンヘンにあるAIDのオフィスはアルゴAIの欧州本社「アルゴ・ミュンヘン」となり、アルゴは欧州への進出を果たすことになる。
アルゴAIは2016年に、元グーグル社員のブライアン・セールスキーとピーター・ランダーらが設立した企業で、翌年フォードから10億ドルの出資を受け、自動運転システムの開発を進めてきた。今回の合意により、フォードとVWの2社は同等のアルゴの少数株式を保有する。2社は共同でアルゴの支配権を握ることになる。
フォードは当初、アルゴの自動運転システムを2021年に製造する車両に導入する計画だったが、先日の決算発表の場で、2022年に延期すると述べていた。
VWは明確なスケジュールを示していないが、昨年7月にアルゴへの出資を発表した際に、2022年か2023年頃に自動運転車の商用化を行うと述べていた。VWはフォードと同様に、まずアルゴのシステムを組み入れるプラットフォームを製造した後に、テクノロジーの活用方法を決定する計画だ。
自動運転車両の実用化にあたっては、技術面とビジネスモデルの双方で課題があるが、今回の合意は、3社にとって理にかなったものと言える。フォードとVWはテクノロジーをシェアすることで、開発コストを抑えようとしている。2020年代の前半に、実際に市場に投入される自動運転車の台数は、数年前の想定よりも、かなり少ないボリュームになりそうだ。
調査企業Guidehouse Insightsは、2025年までに市場に投入される高度な自動運転車両の台数が年間30万台程度にとどまると予測しており、その大半が配送用車両になる見通しだ。
アルゴは今回、VWから潤沢な資金を調達しており、フォードはしばらくの間は増資を検討する必要がなく、自動運転車周辺のビジネスモデルの開発や、カスタマーエクスペリエンスの向上に専念できる。
事業モデルの見極めが必要
今後の数年の間、世界はコロナ後の回復に向かって進んでいくため、時間をかけてビジネスモデルを見極めることが重要になる。人々の通勤やライフスタイルが変化する中で、求められる車両やサービスが明らかになっていくはずだ。フォードは、それを考慮に入れた上で、自動運転車の立ち上げを遅らせた。
一方で、アルゴは今回のパートナーシップにより、北米と欧州の両方で商用化に向けたパートナー企業を持つ、世界でも稀な自動運転システム企業に成長した。AIDのチームを吸収したアルゴ・ミュンヘンは、ドイツと北米を合わせると1000人を雇用する企業に飛躍した。
フォードとアルゴは現在、フォードが商用サービスの立ち上げを目指す米国の3都市(マイアミ、ワシントンDC、オースティン)で、テスト車両を走らせている。
これまで以上の資本力とエンジニアリングのリソースを抱える企業となったアルゴは、自動運転テクノロジー分野を代表する企業の1社に成長した。フォードとVW、アルゴAIの3社の合意の締結により、米国発の自動運転システムが、欧州に覇権を広げようとしている。