「蜘蛛の糸」のポストコロナ社会


芥川龍之介に『蜘蛛の糸』と題する短編小説がある。天上から垂らされた蜘蛛の糸によって地獄から抜け出そうとした男が、その糸にしがみついて他の大勢の人々も登ってくるのを見て、「下りろ」と叫ぶが、その瞬間に、その蜘蛛の糸が切れ、自分も地獄に落下していくという寓話である。

いま、新型コロナウイルスの感染拡大によって、世界全体が大きな混乱と危機の中にあるが、人類全体が、いかにしてこの危機を脱していくことができるのかを考えるとき、我々は、この『蜘蛛の糸』のアイロニーを思い起こすべきであろう。

自分の国さえ守れば良いとの「自国第一主義」が、実は自分の国をも深刻な危機に陥れてしまうというアイロニー。それを、パンデミックは、地球温暖化以上に鮮明な形で、我々に突きつけている。

仏教に「自利は利他なり。利他は自利なり」という言葉があるが、このパンデミック危機は、まさに、この言葉の意味を教えている。

そして、タオイズムには、「陰極まれば陽。陽極まれば陰」という言葉がある。

「自国第一主義」が世界全体に蔓延するかと思われた時代の極点において、この新型コロナウイルスの蔓延が、世界全体に「国際協調主義」の重要性を改めて認識させた。

そこに、何かの深い配剤を感じるのは、筆者だけであろうか。

連載:田坂広志の「深き思索、静かな気づき」
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文=田坂広志

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