ビジネス

2020.06.06

農家と鍛冶屋の物々交換、デザイン会社が始めた新たなWin-Win関係

福岡県のいとしまシェアハウスからは、甘夏とお米、そして包丁とハンターナイフが送られてきた (c)Coelacanth Shokudo


包丁研ぎ自体の「価値」は1000円くらいのものだが、地元の新鮮な食材と交換して、自炊をすれば豪華な夕食になる。「人付き合いも生まれ、また相手もお金以上の価値を感じると仰ってくれました」と藤田は見出した新たな発見を語る。


包丁とハンターナイフは、研いで美しく生まれ変わった (c)Coelacanth Shokudo

小さな村のゲストハウスでの滞在を通して、村の住人と同じ感覚で田舎暮らしを経験。自然に包まれた生活のなかで、藤田は人間としての自然な暮らしのあり方を体感したという。

「近所付き合いや共同作業など、『本来の当たり前の生活』が当たり前にあるという生活と、そこから生まれる価値創造を経験して、この価値の交換を事業として発展させられないかと考えてきました」

人と人の「思いやり」を大事に


お金ではなく、その先にある「人」を想うこと。その継続によって社会が良い方向に変化するという流れ。MUJUN EXCHAGEのそんな構想の先には、お金に依存しない新しい経済取引がある。

「お金を稼ぐ・使うという2つが融合することで、お金の要らない取引になるのがMUJUN EXCHANGEの面白いところです。金額という勘定ベースではなく、人との交流から生まれる感情ベースでの取引を増やしていきたいです」と藤田は語る。

現在の課題は、どうしても発生してしまう送料だ。解決の鍵となるのは、コンセプトのグローバル化(認知拡大)と、仕組みのローカル化(地域毎展開)だ。「ゆくゆくはこの取り組みに賛同してくれる人たちを増やして、再度、地域毎のお裾分け文化に戻っていくのが理想的」と語る藤田。いまは地域内でのマッチングツールの構築も検討しているそうだ。


(c)Coelacanth Shokudo

人とのつながりや思いやり。そこから生まれる共感や信頼関係は、藤田が仕事をするうえで大事にしている価値観だそうだ。お金という価値交換の絶対的なツールによって、私たちの生活における取引の多くがアノニマス(匿名)になっている。言わばお金の向こうに人の顔が見えないのだ。

コロナ危機で分断されてしまったことで、私たちが人とのつながりをより強く求めるような傾向にある時代において、彼のような人と人の「思いやり」を大事にするイノベーターの存在は貴重になる。

「試してみることに失敗はない」と語る藤田だが、社会が危機モードにあるときだからこそ、既存の価値観や考えに捉われない新しい挑戦ができる。新しい「ビジネスモデル」としてのMUJUN EXCHANGEの今後の発展に注目していきたい。

連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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文=MAKI NAKATA

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