MUJUN EXCHANGEは、農家と鍛冶屋の新しい物々交換の仕組みで、「刃物研ぎメンテナンス技術」の対価として「農家が育てた農作物」を受け取るという、お金を介さない価値交換モデルだ。貨幣経済の先を見据えた新しい挑戦だが、どんなものなのだろうか。
ツイッターで告知、農家限定でスタート
「農業に携わるみなさま、鍛冶屋と一緒に社会実験をしてみませんか。畑でつくられた野菜や果物などと一緒に、メンテナンスを頼みたい刃物を送ってください。こちらで研いで送り返します」
(c)Coelacanth Shokudo
4月21日、MUJUN WORKSHOPで鍛冶職人を目指し修行を積む若き職人の1人、藤田純平が自身のツイッター上で告知した内容だ。翌日には、早速5軒の農家と話が進み、取り組みが動き出した。6月4日現在で、この告知は188件リツイートされ、525件のライクがついている。
MUJUN EXCHANGEの仕組みはシンプルだ。まずは農家がメンテナンスの必要な刃物と、自らが生産する米や野菜といった農作物をシーラカンス食堂に送付する。荷物が届き次第、現在3名の職人が常駐するMUJUN WORKSHOPがメンテナンス作業に取り掛かり、完了後は農家に返送する。
(c)Coelacanth Shokudo
通常、刃物の状態によってメンテナンス料金は変動するが、同社のサイトに掲載された目安の料金表を参照して、それに見合う農作物や加工品を同梱すればよい。事前連絡の必要もない。送料は、現状では互いの元払いというルールとなっている。
これまでに11丁の刃物メンテナンスを受注。ツイッターを通じて今後の発注も10件以上入ってきている。現時点での取引先は基本的に農家限定だが、サービス利用者の満足度は高く、早くもリピーターが現れているという。
きっかけは島根で体感した「田舎暮らし」
兵庫県に拠点を持つシーラカンス食堂だが、代表デザイナーの小林新也は大学時代から頻繁に島根県に足を運ぶなかで、地元の自然環境や素材に魅せられ、ものづくりの現場、職人や起業家たちとのネットワークを構築してきた。
そして今春、島根県での新たな拠点づくりに向けた調査が目的で、MUJUN WORKSHOPの藤田らとともに、大田市温泉津町の小さな集落、日祖にある民家を改装したゲストハウスで数週間生活をしていた。そこでの生活で経験した「ご近所のお裾分け」が、MUJUN EXCHANGE構想の直接のきっかけとなった。
「海藻や魚、山菜を分けていただいたお礼に包丁を研いであげました。すると自然とWin-Winの効果が生まれ、人間関係も深まり、持っている情報や知恵の交換も始まりました」と藤田は振り返る。