これは、まさに今起きている危機だ。このまま手をこまねいていれば、これらの「行き場を失った在庫(Lost Stock)」は埋め立て地送りとなり、環境汚染や温室効果ガスの発生源となるだけでなく、衣料品製造に関わる労働者やその家族は食べるものにも困る状況に陥ってしまう。
バングラデシュ縫製品製造業・輸出業協会(BGMEA)はすでに、注文キャンセルによる影響はバングラデシュにとって「壊滅的」なレベルに達しているとして惨状を訴えている。そんななか、あるスタートアップ企業が、事態の改善に向けて懸命な努力を続けている。
出会い系アプリ「ティンダー(Tinder)」風のインターフェースを持つショッピングアプリ「モールジー(Mallzee)」は5月18日、新たなサービス「ロスト・ストック(Lost Stock)」を立ち上げた。これは、縫製工場が抱える、行き場を失った在庫衣料品を詰めたボックスを、希望小売価格の半額で直接消費者に届ける試みだ。
ボックスの価格は、1つ35ポンド(約4700円、送料別)。1つのボックスの中には、大手ブランド向けに作られた衣料品が3着入っており、購入者のサイズや好みのスタイルに合わせたものが送付される。費用や時間のロスを防ぐため、購入者がアイテムを直接選ぶことはできないが、もともとの希望小売価格の半額という安さと、1つのボックスを購入することで、1人の労働者とその家族の1週間分の生活が支援できることを考えると、アイテムを選べないことは大きな問題ではないように見える。
サービス開始から最初の1週間で、ロスト・ストックで販売されたボックスの数はすでに6万2000個に達した。
BGMEAによると、トップショップ(TOPSHOP)やプライマーク(Primark)、ギャップ(GAP)、マタラン(Matalan)、エジンバラ・ウーレン・ミル(Edinburgh Woollen Mill)などのブランドは、広範な抗議の声があるにもかかわらず、自社の損失を最小限に抑えるため、工場への注文をキャンセル、あるいは一時停止したという。
一方、ネクスト(Next)、テスコ(Tesco)、マークス&スペンサー(Marks & Spencer)といった他のブランドは、注文キャンセルを撤回し、バングラデシュのサプライヤーに対する既存の注文を履行する意向を表明している。
それでもバングラデシュでは、400万人を数える衣料品関連の労働者のうち4分の1以上が失業、あるいは賃金を受け取れない状況にある。さらに、ブランドによっては、今後の注文をキャンセルし、注文を見越して購入されていた原材料の費用を支払うことを拒否するところも多い。