増える外国人住民の子ども世代 中国にルーツを持つ東大生が考える日中関係

d3sign/Getty Images


日本にいたときは、中国の人たちが自国の政治体制をよいと思っていることが信じられませんでしたが、彼らなりの合理的な考えがあることがわかり、中国人の思考の一端に触れることができました。

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北京大学に留学した際に友人たちとソフトボールをした時の写真

一方で、政治に関して独裁色の強い中国において、北京大学は比較的学問の自由を守っていることに驚きました。憲法学の教授の授業を受けてみると、現状のシステムに対して批判的で、すでにその著書も発禁となっている人でした。しかも、その授業が必修で人気授業なのです。中国といっても本当にいろいろあるのだなと思いました。

リアルな中国を体験したことで、日本に帰国してからも、中国に関する言説を聞いたときにすんなり受け入れるのではなく、多角的な視点で考えることができるようになりました。

──現地のリアルな現実に触れることの重要さを身にしみたということなのですね。

まさにそうです。そして、その感覚は、今回立ち上げたサービスや会社の理念にも強く反映されています。これまでのツアーが悪かったわけではないのですが、ショーケースのなかの日本というか、観光客に見せるためにつくられたもので喜んでもらっていただけだったのかもしれません。

そうではなく、地元の人々がディープな日本を案内することで、人と人が向き合い、日本の複雑性や懐の深さを伝えることができると思います。このサービスが国家を超えて、個人と個人の交流が促進され、これまで染みついていた固定観念を壊し、真の相互理解に繋がることを願っています。



王さんのように、自身のルーツを大切にしながら、場合によってはルーツを生かして日本社会の一員として活躍している人は少なくない。そして、日本社会も多様なルーツを持つ人たちによって支えられている。

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本で暮らす外国人住民にも大きな影響を与えている。「コロナ切り」と呼ばれる解雇が相次ぎ、政府もこれまで転職が認められていなかった技能実習生に、特別措置として転職を認めるなど対策に乗り出している。技能実習生などは在留資格の性質上、子どもがいるケースは少ないかもしれないが、このようなニュースが、日本社会で暮らす外国人住民にどのようなメッセージを与えてしまうのか、心配でならない。

外国からの技能実習生においては、国内の受入企業の約7割が法令違反をしているなど、信じられないような実態も明らかにされてきている。一方で、外国人住民との共生やサポートを行う企業や団体が活躍していることも事実だ。

外国人住民も間違いなく日本社会の一員であり、これからも王さんのような子ども世代は増えてくるだろう。そんなとき、多くの子ども世代の人たちに日本社会の一員であることで幸福を感じ、貢献したいという想いを持ってもらえる社会でありたいと思う。

連載:ニッポンのアイデンティティ
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文=谷村一成

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