増える外国人住民の子ども世代 中国にルーツを持つ東大生が考える日中関係

d3sign/Getty Images

日本の人口は2020年4月時点で1億2596万人(総務省発表)と、2008年の1億2808万人をピークに減少が続いている。一方で、日本で中長期的に暮らしている外国人人口は2019年末時点で293万人(法務省発表)と過去最高を示している。

人口減少が課題となる日本社会において、外国人が人口維持や労働力確保の観点で重要な位置づけとなっていることは間違いなく、日本政府も「特定技能」と呼ばれる新たな在留資格を創設するなど、この動きを後押ししている。

以前は、外国人住民というと、歴史的経緯からか、日本社会で暮らす朝鮮半島にルーツを持つ人たちをイメージする人も多かったかもしれない。しかし、年々就職などで来日して中長期的に日本で暮らす外国人が増加し、2007年には中国出身の外国人住民が朝鮮半島出身者を超え、ここ数年ではベトナムやネパールなどの東南アジア出身者も急増するなど、大きな変化を迎えている。

このような状況で忘れてはならないのは、外国人住民の子ども世代が続々誕生していることである。両親ともに外国籍だが、日本で生まれ育ち、両親の母国や母語を知らない子どもたちも少なくない。

中国人の両親を持ち、千葉で生まれ育ち、現在は東京大学に在学中の王航洋さんも、そんな子ども世代の1人だ。

3年前まで、日中学生会議の代表を務め、日本と中国の若者の相互理解に取り組んでいた王さんは、その後もっと深く自らのルーツの国を知るため北京大学に留学。帰国後は自ら起業して、「Trippy」というガイドを探している旅行者とガイドをしたい人をマッチングするアプリを開発し、今年の2月にリリースした。

増加する外国人住民の子ども世代は、日本と両親の母国にどのような意識を持ち、どのように生きているのだろうか。王さんに聞いた。


──留学から戻り、自ら起業してアプリを開発するに至ったきっかけとは何だったのでしょうか?

最初は、日本語を学ぶために日本に来たばかりの中国人留学生と、日本語を教えたい日本人をマッチングさせるサービスを考えていました。ですが、協力してもらう予定だった人や会社との関係づくりがうまくいかず、途中で頓挫してしまいました。

諦めきれず、別のアイデアを考えていたときに、以前に出場したビジネスコンテストで提案した観光関連事業を思い出しました。また、旅行業法の改正により、ガイドに資格が不要になったことも追い風となりました。

「Trippy」は、地元の人にガイドをしてもらうことで、旅行者がより深く地域文化を味わうことができたり、現地の人たちと交流することができたり、お仕着せのツアーでは味わえない旅の体験ができます。

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Tripyメンバーでつくば市の事業に応募してプレゼンをしている様子

ガイドする側にとっても、地元の魅力を伝えたい、外国人や他のエリアの人たちと交流したい、空いている時間でお金を稼ぎたいなど、さまざまなことが実現できます。

千葉人という感覚のほうが強い


──日本と中国というポイントに着目されているのは何か背景がありますか?

コロナ禍の前までは、中国からの観光客が増えていたので、ビジネス的観点から中国人観光客と日本人ガイドをつなぐことをメインターゲットとして考えていました。

もちろん自身のルーツが影響しているかもしれません。両親は中国出身で、父は日本に留学中、母は仕事で来日しているときに知り合い、結婚しました。私は生まれも育ちも千葉で、中学生のときに家族全員で日本国籍を取得しました。

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王航洋さん

──自身のルーツは意識されることが多いですか?

いいえ、そんなことはないです。思い返せば、小学生くらいのときはそのことで軽いいじめにあったような記憶もありますが、そのうちなくなりました。いまでは、自分自身も周囲もルーツのことはほとんど意識することがないです。

千葉で生まれ育ちましたので、自身は日本社会の一員としての意識が強いです。正確に言うと、千葉人という感覚のほうが合っています。ですが、日本と中国の関係性に対する強い興味は持っています。
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文=谷村一成

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