朝日新聞編集委員(朝鮮半島、米朝・日米関係担当)

左:安倍晋三首相、右:習近平主席(Kim Kyung-Hoon-Pool/Getty Images)

トランプ大統領が6月のG7を9月に延期し、露骨な「中国包囲網」を明確にし始めた。中国が香港への統制を強化した「国家安全法」に反発し、アメリカが香港に認めている優遇措置の廃止手続きを発表。アメリカVS.中国の対立がエスカレートするなか、関心が集まっているのが日本の安倍首相の言葉だ。公式声明のあとで、非公式の「追加説明」が外交ルートで行われているという。


中国の全国人民代表大会(国会)が5月28日、国家安全法を香港に導入する「決定」を採択した。日本政府は直ちに、菅義偉官房長官がそれまで記者会見で使っていた「強い懸念」という表現を「深い憂慮」に切り替えた。

外交上のレトリックでは、「懸念」→「憂慮」→「遺憾」→「非難」という順番で、表現が強くなっていく。複数の関係者の話によれば、この表現は、様々な国際環境を頭に入れたうえで、周到に練られた結論だった。

まず、香港は「一国二制度」ではあるものの、中国の一部である事実を、日本も認めている。そうである以上、抗議という形式は取りづらい。政府関係者の1人は「中国が日本人を抑留した問題や、尖閣諸島の日本領海を侵犯している問題とは区別すべきだ。香港問題でやり過ぎると、中国が日本の国内問題に首を突っ込んでくる名分を与えかねない」と語る。

そして、最大の友好国である米国への配慮も加えた。新型コロナウイルス感染問題への対応に批判が広がり、経済不況も深刻になりつつあるトランプ米政権は、11月の大統領選を控え、中国叩きに狂奔している。トランプ大統領は5月29日、中国と香港の当局者への制裁や、貿易などで香港に与えた優遇措置の停止などの方針を明らかにした。米政府は当然、日本にも同調を求めていた。

お隣の韓国が「事態を注視する」といった表現にとどめたのに対し、日本は秋葉剛男外務事務次官が28日、中国の孔鉉佑駐日大使を外務省に呼んで「深い憂慮」を申し入れた。形式として強い態度を示すことでバランスを取ったわけだ。

日本政府の対応について、自民党の一部などから、更に強い対応を求める声が出ている。だが、表現を「憂慮」と、やや弱い水準にとどめたのは上述したような綿密な計算に基づいた結果だった。今後の香港情勢を見極めて、徐々に表現を強くしていく余地を残し、外交戦術の選択肢を確保する狙いもあった。いきなり、中国に対する制裁を口にしたトランプ政権のやり方に全面的に付き合う必要はないという計算も働いた。

そして、肝心の安倍晋三首相の中国に対する視線も厳しくなっているという。香港問題について外務省や国家安全保障局などからの説明を聞くとき、首相からはしばしば中国を批判する言葉が口をついて出るという。周辺は、内閣支持率の低下や、中国への厳しい対応を求める自らの支持層からの突き上げが原因ではないかと噂し合っている。

文=牧野愛博

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