流行の予防、金融サービス。ブロックチェーン先進国・中国で生まれた、DXの先進事例


流行の下での金融・経済政策の効率化


次に、社会経済全体に及んだコロナウイルスの影響をどう乗り越えていくか、という観点でブロックチェーンのユースケースを考えましょう。

COVID-19は世界経済に深刻な爪痕を残しており、米国の推計では世界恐慌以上のダメージが生じると予想されています。現在は、緊急事態宣言によって休業に追い込まれている飲食・観光・旅行・イベントなどの業界の被害が問題視されていますが、年単位での自粛が続く場合、この影響は全業種・業界へ波及していきます。

自粛期間を乗り越えられないほとんどの中小企業は事業を継続するか否かの瀬戸際に立たされることになるでしょう。

COVID-19以降の世界を見据えて、中長期的には「必要な人に必要なタイミングでお金を回せるなめらかな金融インフラ」を構築しなければなりません。

中国で既にテスト利用が開始されたリテール向けのCBDC(中央銀行デジタル通貨)は、財政出動によってダイレクトに民間に資金を回すためのシンプルなソリューションとなります。

また、飲食店が食券を先行販売できる「未来のチケット」のようなクラウドファンディング型のマイクロファイナンスにも注目が集まりはじめました。事業者が柔軟に債権を発行できるプラットフォームなど、金融機関の審査によらず支援者を募るモデルは今後の不況下において成長していくファイナンスモデルとなるでしょう。ファンの多さやその熱心さなど、既存の与信システムが評価しづらい価値をお金に転換することが可能だからです。

こうした少額・多人数向けの金融サービスにおいてボトルネックとなる決済コストを削減するためにブロックチェーン技術の活用が期待されます。

中国では、北京金融持株集団、白新銀行などが「ブロックチェーンベースの中小企業向け金融サービスプラットフォーム」を共同開発し、業績が苦しい中小企業の過去の取引実績や売掛金情報に基づいた与信評価から融資を行うアプリケーションを実現しています。

DXは生存に不可欠な取り組み


COVID-19によって、私たちは「フィジカルな空間を他人と共有することができない」という前提のもとでビジネスや生活を続けていかなくてはならなくなっています。

この変化を踏まえて、フィジカルな空間を前提に行われていた社会・経済活動を、極力デジタルなプロセスに置き換えていかなくてはなりません。感染症の流行以前には競争力の新たな源泉と考えられていたデジタルトランスフォーメーションは、今や文字通り生存のために不可欠な取り組みとなっています。



しかしながら、デジタルな空間で他者と信頼関係を築くことは容易ではありません。特にビジネスプロセスにおいては、他者と「正しさ」を確認しあえる土台が必要です。

事実の積み重ねと情報の共有を得意とし、確からしさを補強するブロックチェーン技術は、デジタル空間で人と人とが信頼関係を構築し、合意を形成していくための大きな武器となり得るのです。

文=森川夢佑斗

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