東洋の教えから知る、古くから続く人々のあり方

なぜ日本のどの町にも薬師如来像が安置されているかご存じだろうか。新型コロナウイルスから、いまも昔も変わらない人々の姿が垣間見える。
 
いまのところ、このウイルスに対しては治療薬もワクチンも存在しない。感染の仕方を含め、未知のウイルスである。おそらく半年はこの状況が続くことになる。
 
現在、治療方法は対症療法しかない。つまり、自分の免疫で治しているということだ。ウイルスの勢いが強くなって全身の状態が悪くなると、一時的に医療器具でそれらの臓器の機能を補う。気道に挿管され呼吸管理をされたり人工の肺を使ったりしているが、それらは治療というよりも、本人の免疫がウイルスに打ち勝つまでの時間稼ぎをしているのである。
 
若い人より疾患をもっている高齢者が重篤になるのも、身体の機能が万全ではなく、病気を排除する力が劣ってくるからだ。免疫が戦って勝つまでの時間が稼げないのだ。
 
結局、このウイルスに限って言えば、東洋医学的な自己免疫を上げるしか治療方法はない。医療技術が進む前と同じである。食事のバランスを整える、体を温めるなど一般的な自己免疫を高める方法はある。しかし、一概にこれをしろとは言えない。日ごろ足りていない部分に自ら気づいて補うことが必要だからだ。
 
病院に頼り過ぎないことも重要だ。現代社会では他人(この場合は病院だが)の判断に依存する傾向が強い。病院に行く基準まで政府に求め、それを聞いて安心する。しかし、はじめの一歩としては自分の身体の変化に気づくことが重要である。
 
例えばいつもは何気なく上がれる階段がつらいとか、気力がない、体重の増減、背中のゾクゾク感まで自分自身を観察してほしい。東洋医学的に大切なのは、自分の身体の変化を感じること。そのうえでおかしいと感じたら躊躇なく検査に行くべきだ。
 
東洋医学が成立した時代にさかのぼると、病気にならないように免疫力をつけるのが医療だった。すべての病気が未知だったからだ。風邪から癌まですべてだ。特効薬もない。風邪から肺炎に進行するのを横目に何もできない人々は、病気にかかったが最後、祈るしかなかった。そのため、冒頭で書いたように全国至るところに薬師如来を祀る廟ができたのだ。
 
今年3月に入ってSNSで「アマビエ」の絵を描いて人に見せることが流行している。「アマビエ」は江戸時代後半に肥後の国に現れた妖怪で、髪は長く鱗(うろこ)で身体がおおわれている。「疫病が流行ったら自分を描いた絵を人々に見せよ」と言ったとされる。これは現代の薬師如来ではないか。 

医学が発達しても、その時点で未知のものは怖い。ただ、自分の身体の情報は自分で感じることができるはずだ。刻々と変化する不確かな情報に躍らされることなく、自分の免疫力を高めることに注力してほしい。


桜井竜生◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。元聖マリアンナ医科大学の内科講師のほか、世界各地で診療。著書に『病気にならない生き方 考え方』(PHP文庫)など。

文=桜井竜生 イラストレーション=ichiraku / 岡村亮太

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