経済・社会

2020.06.03 12:30

ああ、なぜ日本だけが。WHOオンライン国際会議の「背景」問題

オンラインで演説をする加藤勝信厚生労働大臣

新型コロナウイルスは人々の生活を大きく変えた。散々言われているが、テレワークが主体になり、みな、今はやりのウェブ会議ツール「Zoom」などを使って会議をしたり、オンライン飲み会をしたりしている。

もっとも、世界では既にオンラインを使った発信や情報共有が盛んに行われている。最近では、「隠者の王国」と言われる北朝鮮ですら、普通の市民(を装った政府関係の人と思われる)が、ユーチューブのなかで、平壌の遊園地やデパートを紹介(宣伝)している。

そんななか、5月半ばに、世界保健機関(WHO)の年次総会(WHA)がテレビ会議方式で開かれた。新型コロナウイルス問題に関心が集中するなか、米国が猛烈な「WHO・中国たたき」を演じるなど、いつにも増して世間の注目を浴びた。議論の行方も重要だったが、各国代表によるスピーチの演出にもお国柄が感じられ、大変興味深かった。各国代表は、テレビ会議であることを意識し、その威信をかけて様々な工夫を行った。

中国の習近平国家主席は重厚な机を前に、コロナ対策のために20億ドルを拠出する考えを示した。背後には、夕日に染まったのか一部が朱色に輝く山肌を縫うように聳える万里の長城の絵画がかけられていた。もちろん、中国の象徴である五星紅旗も掲げられている。卓上に飾られた「中国・CHINA」のネームプレートも、中華風の飾りがついている。まさしく「我こそ、世界の新しいリーダーだ」と言わんばかりの演出だった。

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中国の習近平国家主席

韓国の文在寅大統領は、背景の画面いっぱいを5旒(りゅう)の太極旗(韓国国旗)で埋め尽くした。文氏は5月10日の就任3年記念演説で、「私たちの目標は、世界をリードする大韓民国だ」「すでに私たちは防疫において世界をリードする国となった」とも語っていた。日本政府関係者の1人は「韓国は日本統治時代、民族の存在を抹殺された国だ。それが、自分たちの国に対する強烈な自負心となって表れているのだろう」と語った。WHAでの演説も、こうした韓国人の思いを背負った演出となった。

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韓国の文在寅大統領

一方、欧州では、フランスのマクロン大統領は背景に、トリコロールと呼ばれるフランス国旗とEU(欧州連合)旗を置いただけのシンプルな画面だった。それでも、立ったまま、正面を見据え、時折、拳を作った左手を動かしながら、情熱的な演説を行った。メルケル独首相も会議室と思われるシンプルな場所だったが、やはり国旗とEU旗、絵画などを効果的に配置し、立ったまま自然な雰囲気で語りかけた。

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フランスのマクロン大統領

これに対し、発展途上国などは「国の威信」を特に強調した演出になった。シリアの担当相も背景は、重厚な銅板のようなレリーフが飾られていた。ハンガリーは豪華な宮殿風の部屋で演説していた。花盛りを置いたベトナム、母国の自然と思われる画像を流したアルゼンチンのように工夫した国もあった。民族衣装を身にまとった代表者もいたし、ほぼ例外なく、背景に国旗か国章、あるいは国王らその国の指導者の肖像画・写真を飾り、まさに「国の威信」をかけての演説会となった。

そして、米国から猛烈な批判を浴びたWHOのテドロス事務局長は、おなじみの、平和の象徴であるオリーブに包まれた世界地図を描いた国連の紋章に、ギリシア神話に登場する名医が持っていた蛇が巻きついた杖(アスクレピオスの杖)をあしらったWHOのマークを背景に淡々と演説を行った。
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文=牧野愛博

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