ビジネス

2020.06.09

アマゾン、主戦場をオフラインにシフトか? 噂の無人レジ技術「外販開始」

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買い物袋にどんどん入れて「立ち去る」だけ


Amazon Goを利用するには、顧客側はまずスマートフォンにアプリを入れて、Amazon.comのアカウントとの関連付けを行う必要がある。アプリを起動するとQRコードが画面に表示され、入店の際のゲートにそのQRコードを読ませて通過する。店内には日本のコンビニエンスストアと変わりなく、飲み物や食品が棚に陳列されている。それを棚から取り出し、自分のカバンや店内で販売しているエコバック、紙袋等にどんどん入れていけばいい。


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欲しいものを全て入れたら、レジへ……ではなく、そのままゲートを通って店の外へ出るだけ。まさに「ただ立ち去る」のだ。

ゲート通過後、数秒から数分後には、店で入手した商品の明細と金額が表示されたメッセージがアプリに届く。決済はAmazon.comに登録されたクレジットカードに課金されて終了である。なんとシンプルな購買体験だろうか──。

「ジャストウォークアウト」は自動運転の技術と同じ


しかし、どうしてこのようなことが可能なのか。アマゾンがこの技術を紹介するために開設した「justwalkout.com」というWebサイトによれば、「これは車の自動運転に利用されているのと同様の技術で、画像認識技術やセンサー技術、そしてディープラーニング技術が使われている」ということだ。

実際にAmazon Goの店舗に入ると、天井や棚などに多くのカメラやセンサーが取り付けてあるのに気づく。それらが、顧客が店舗に入った瞬間からの行動を全て追跡して、「どの商品を取り、どの商品を保持した状態で店舗を出たのか」を認識するのだ。こういえば簡単そうだが、実際にカスタマーが棚から商品を出し入れするのを「ことごとく正確に」追跡するのは、実は並大抵なことではない。


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実際に筆者がAmazon Goを訪れたときも、いくつかの「いたずら」を仕掛けた。すなわち、1. 棚に並ぶ板チョコレートを適当に数枚つかみ、目にもとまらぬ速さ(であったかどうかは主観的なものであるが)でカバンの中に入れる、2. 棚の奥で商品をこっそり持ち換えて、最初に取った商品とは違う商品を取る、などである。だが課金された金額は正確で、一度も間違いがなかった。その精度はまさに「驚愕」に値するレベルだったのだ。

プロトタイプリリースから3年。超速で一般小売業者へ


今回の発表は、そのAmazon Goで培われた無人レジの仕組みを「他の小売業者へ提供する」というものである。「justwalkout.com」は、「アマゾンが導入店舗を訪れてから数週間で導入可能」と謳っている。新規オープンの店舗であれば建設途中からチームを派遣し、ジャストウォークアウト・テクノロジーに適したレイアウトを提案するという。技術もさることながら、そのスピード感もさすがアマゾン、たいしたものである。

プロトタイプのリリースからおよそ3年で、他社にまで販売できるシステムに作り上げたその技術力とチャレンジ力は、当にアマゾンの真骨頂ともいえるかもしれない。

アマゾンは、「小売り」というメインのビジネスを展開するだけでなく、プライムビデオなどのデジタルコンテンツの配信や、「AWS(Amazon Web Service)」と呼ばれるクラウド技術の提供など、様々なビジネスを展開する企業であることは皆さんもよくご存じだろう。プラットフォーマーと呼ばれる「GAFA」の一角を占めるそのアマゾンが、リアル店舗のプラットフォームを展開し始めたというところに、凄みを感じる。

今回の技術リリースには大きなブレイクスルーが存在する。そう筆者は感じている。それは大規模店舗への対応が可能になったことだ。そもそもAmazon Goはコンビニサイズの店舗。天井は低く、床面積も小さいものが多いので、カメラやセンサーが守備するべき範囲も限られており、導入のハードルもそれほど高くなかったが、外販を始めるためには「あらゆる店舗規模への対応」が必要になる。3年前にグループ会社となった高級スーパーのホールフーズマーケットで実証実験をしているという噂を小耳にはさんだが、これは、その「全対応」が十分に検証された結果であろう。

「完全無人にはできない」が──


ジャストウォークアウト・テクノロジーを導入する企業にとっては、当然ながらメリットとデメリットが存在する。
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文=佐藤将之 編集=石井節子

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