AIで新薬を生むバイオテック企業「Insitro」、累計260億円を調達

バイオテック企業「Insitro」の創業者兼CEOダフニー・コラー(Photo by Neilson Barnard/Getty Images for New York Times)


ギリアドとも治療法を共同開発


Insitroは、昨年ギリアド・サイエンシズと肝疾患の治療法を共同開発する契約を締結し、前渡金1500万ドルを受け取っている。成功すれば、同社は最大10億ドルを受け取ることになる。

この提携では、Insitroはギリアドの臨床試験データを使って機械学習プラットフォームを学習させることができるという。Insitroは神経科学にも重点的に取り組んでおり、動物モデルの代わりに人間の細胞を使うことで、神経疾患の治療薬開発に役立てたい考えだ。

今回調達した資金の一部は、規制関連の専門家をはじめ、新薬開発の経験を持つ人員の採用に費やすという。他には、肝疾患の研究体制の強化などに資金を充当する予定だという。

創薬分野における機械学習の活用は盛んに行われている。Recursion PharmaやVerge Genomicsも、創薬プロセスを迅速化するために機械学習を用いており、大手製薬会社のノバルティスやメルクも機械学習を手掛ける企業と提携している。

Insitroが他社と異なるのは、機械学習プラットフォームの学習に必要なデータを大量に生み出している点だ。コラーによると、他社の多くは既存データを学習に用いているが、中には乱雑なものも含まれ、分析精度の低下につながっているという。

「私の経験では、機械学習の精度は学習させるデータの質に比例する」と彼女は言う。

もう1点Insitroが他社と大きく異なるのは、他のスタートアップが大手製薬会社との提携を目指しているのに対し、同社は新薬の発見から開発、承認取得までを自社で行おうとしていることだ。コラーによると、大手との提携も検討するが、一部の治療薬は自社で全てを手掛けるつもりだという。

しかし、Insitroと他社との最大の違いは、野心的なコラーが経営者であることだろう。

「コラーの存在があるからこそ、投資家は他社ではなくInsitroに出資をしたいのだ。我々は、小さな製薬会社を作るのではなく、業界を変革する企業を生み出したい」と、同社の出資元のARCH Venture Partners のRobert Nelsenは述べた。

編集=上田裕資

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