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ホテル椿山荘東京の庭園に舞う蛍。

春から外出自粛が続く中、ホテル椿山荘東京では今年最初の蛍の飛翔を確認し、その動画を配信した。毎年1万匹近くの蛍が舞う同ホテルの庭園。その魅力を紹介する。


夏の風物詩、蛍


初夏の風に、少しずつ湿り気が含まれる頃。日が沈み夜のとばりが降りると、清流のせせらぎが聞こえるあたりにふわり、ふわりと小さな光が舞いはじめる。暗闇の中に現れては消え、消えては現れる光景は世にも幻想的で、弧を描きながら飛翔する光を、しばし時を忘れて探し求めてしまう。

そんな蛍との遭遇を、現代に生きる私たちは人生で何度経験することができるのだろう。それでも蛍と聞いて、懐かしさを覚え、郷愁に誘われるのは、古来よりこの国で蛍が夏の風物詩として親しまれてきたからだろうか。

平安時代にはかの清少納言が、春はあけぼのからはじまる「枕草子」で、夏について次のように書き残している。

「夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし」

(夏は夜がいい。月が輝く満月の夜は言うまでもなく、月のない闇の夜にも、多くの蛍が飛びかう光景がいい。また、蛍が1匹2匹と、ほのかに光って飛んでいくのも趣がある。雨など降るのも趣がある。)

微かな炎の明かりだけが頼りの時代に、月のない夜はどれほどの暗闇に覆われていたことか。漆黒の闇の中に、蛍の光が無数に現れて舞う様子は、さぞ美しく見る者の心を慰めたことだろう。

移りゆく季節の事象に、詩情を見出した日本人の感性。今もなお、私たちは蛍と聞くと、その響きに特別な想いを抱く。しかしながら、蛍は自然豊かな澄んだ水のあるところでなくては生息できず、今日の都会で、その姿を見ることは無いに等しい。そのような中、東京の中心にいながらにしてその飛翔を目にすることができる夢のような場所がある。文京区の高台に佇むホテル椿山荘東京だ。


森のように木々が生い茂るホテル椿山荘東京の庭園

都会のオアシス、ホテル椿山荘東京の庭に飛翔する蛍


ホテル椿山荘東京は、まさに都会のオアシスだ。一歩足を踏み入れると、今いる場所が都心であることを瞬く間に忘れてしまう。それほどに、ここには豊かな自然が残されている。広大な庭園はあたかも森のようで、草木が織りなす四季折々の表情は長年にわたり訪れる人々を楽しませてきた。春の桜、秋の紅葉、冬の雪降る中咲く椿……。中でも初夏に出現する蛍は、このホテルに欠かすことのできない風物詩だ。

特に多くの蛍を観賞できる場所は、庭園内に2カ所ある。弁慶橋がかかるその名も「ほたる沢」と、十三重の石塔に近い「古香井」の周辺で、どちらからも蛍が好む清らかな水が湧き出ずる。

庭園の入り口から、生い茂る木々の匂いに包まれ歩き進むと、ふとせせらぎの音が聞こえはじめる。小道の先には赤い弁慶橋がかかり、その橋の上で足を止めると、すっと淡い緑色の光が飛んでいくのを見ることができるだろう。その瞬間に喜びが湧き、まるで童心に返ったかのように我を忘れて次の光を探しはじめる。そうして目の前に無数の光が舞うのを認めると、その光景に陶然と魅せられてしまうのだ。


5月中頃から、弁慶橋がかかるせせらぎの周辺の草むらや水面に蛍が飛翔し始める。


「古香井」から湧き出る秩父山系の地下水は東京の名水に数えられ、夜になるとこの周辺にも蛍が優雅に舞う。

edit & text by Mari Maeda(lefthands)

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