「企業ノイズ」をブランディングに活用 音の余白が生み出す新たな可能性

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私が代表を務めるブランデッドオーディオレーベルSOUNDS GOOD(R)を通じて、自社の「ノイズ」を発信した企業について、リスナーからヒアリングする機会があったのですが、「あの企業がこんなアーティストとコラボするなんて思わなかった」とか「先進的なイメージに変わった」など、ポジティブな意見を聞くことができました。

私が想像していた「若者」とはエンドユーザーのことでしたが、実際に発信した東京ガスと話をすると、社外の反応だけではなく、社内の若手社員からも問い合わせがあったとか、プロジェクトチームに直接声をかけに来たなど、同様のポジティブな反応があったそうです。

私は、ノイズを使うことによって、「若者自身が使い方を想像できる余白」が存在したのが良かったのだろうと分析しています。ビジュアルを伴った強いメッセージよりも、抽象度の高いノイズを使って発信することで、押し付けがましくないブランディングが実現できるだけでなく、インナーブランディングや組織のモチベーション向上までも達成できます。

この先、ノイズを使った新卒採用などの採用活動、社内向けのクローズドイベントなどを開く企業が出てくるのも、そう遠くない未来ではないかと考えています。

ノイズの「普遍性」を使ったプロモーション


2つ目は、ノイズの普遍性です。画像や映像と違ってノイズは、企業の大小や業界に左右されずに、企業ブランディングの素材として有効利用できるということです。

仮にプロモーションやブランディング施策を考えようとしても、「うちの業界はエンドユーザーが面白いと感じる要素がないから」とか、「大企業に勝てる要素はそもそもないから」とか、ブランディング自体を諦めてしまう企業も多いと聞きます。

実際にSOUNDS GOOD(R)がサポートした、約100年続く老舗メーカーの彌満和製作所もそんな企業の1つでした。彼らは約100年の歴史のなかで、B2Bのコミュニケーションを行ったことはあっても、いわゆるエンドユーザー向けのプロモーションやブランディングは一度もしたことがない企業でした。

技術は世界でもトップクラスなのですが、中小企業であり、一般的に知られている業界でもないことから、コミュニケーションを通して自分たちの強みをアピールするのは難しいと考えていました。しかし、若い世代に自社の存在を知ってほしいという想いが強くなり、エンドユーザー向けのコミュニケーションを考えるようになりました。

映像や画像で魅力を訴えるのはハードルが高い。では、どんな発信をしていけばいいだろう。そんなことを考えていた矢先に、その企業は私たちのことを知り、「ノイズ」を使った発信なら、もともと持たれているブランドのイメージを一旦切り離すことができるし、言語やビジュアルにすると伝わりにくい企業の個性も表現しやすいのではと考え、私たちのところに話をいただいたのでした。

ブランドのイメージから一度離れるために、抽象度の高いノイズを選択する。この考え方は、それまでブランドのイメージを強く打ち出すために、ノイズを使ったブランディングを考えていた私にとっては意外なものでした。

音という抽象度の高い「余白」が、ブランドのイメージを規定しがちな視覚からの情報をオフにし、どんな企業や組織も対等なフィールドで競えるようにしてくれるのです。
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文=安藤 紘

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