ビジネス

2020.05.30

世界5位の富豪がハワイでつくる「実験ユートピア」 | ラリー・エリソン(前編)


新型コロナデータベースの構築


暗黒の木曜日から数日を経ずして、エリソンとトランプ大統領は―どちらが言い出したかは双方とも明かさないものの―電話で話をしていた。

エリソンは電話の詳細に言及することを避けたが、概略はスタッフから確認が取れた。トランプとエリソンのつながりが世に知られたのは、2月のことだ。ランチョミラージュの屋敷でトランプの資金調達の催しが開かれたのだ。それに抗議して辞職したオラクルの社員も何人かいる。「厳密に言えば」とエリソンは語る。「トランプ大統領に屋敷を使わせただけだ。私はその場にいなかった」。

エリソンはトランプに献金したことはないとしつつも、今現在、政権に就いている大統領なら誰であれ支持するとも話す。「我々は一度に1人の大統領しか持てないんだ」と、彼は説く。「私は彼が悪魔だとは思わない。彼を支持するし、うまく仕事をこなしてほしい」。

ワクチンが存在しないため、世界中の医師が抗マラリア薬やらエボラ用の抗ウイルス薬やらを使って新型コロナウイルス(COVID-19)を治療する実験を行っている。エリソンはトランプに、治療の有効性や結果に関するデータをリアルタイムで集める情報センターはあるのかと尋ねた。トランプはないと答えた(ホワイトハウスはエリソンとの提携についてのコメントを拒んだ)。

「そこでラリーはこう言ったんです。『医師や患者が情報を入力できるようなシステムを作ってあげよう。そうすれば何が起こっているのかが把握できるからね』と」と、南カリフォルニア大学のローレンス・J・エリソン研究所(編集部注・エリソンが16年に2億ドルを寄付して作られたガン研究所)を率いるガンの専門医、デイビッド・エイガスは言う。「大統領は『いくらで?』と聞き、ラリーは『無料で』と答えました」。

エリソンはそれから1週間以内にオラクルのエンジニアを(人数は明かされていないが)振り向け、エイガスや米国食品医薬品局、米国国立衛生研究所などとの協力の下、米国内の新型コロナウイルス患者のデータベース構築に当たらせた。完成すると、医師たちは何らかの薬剤を投与したCOVID-19の患者全員を、オラクルが立ち上げるウェブサイト上に登録することになる。システムはそれを受けて、医師や患者に毎日メールを送出し、症状の進展に関する報告を求める。本記事執筆時点(20年3月末)で、チームは法的なハードルのクリアに取り組んでおり、プロジェクトの発足は目前との期待を持っていた。
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文=アンゲル・オウ・ユアン 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=町田敦夫 編集=岩坪文子

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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