サウスタワーにショップを“開業”、たちまち広がる「自慢の一杯」
「LIGHT UP COFFEE」は二号店を京都出町柳、三号店を下北沢にオープンし、最近ではリニューアルした渋谷PARCOの屋上に新店舗を出店した。
店舗が増えたことにより、LIGHT UP COFFEEのこだわりコーヒーを手にする人は増加。ECサイトでの売り上げも順調に増え、知名度は日に日に高まっていた。しかし川野氏は、右肩上がりの財務諸表を眺めても、満足することができなかった。
「開業してから5年間、土日も欠かさず、美味しいコーヒーを知ってもらうセミナーを開催してきました。また、看板メニュー「飲み比べセット」を開発し、コーヒーに興味持ってもらう機会づくりをしてきました。
しかしそれでは、どうしてもペースが遅すぎる。どれだけ必死にコーヒーを淹れても、できる限りのスピードで店舗を増やしても、日本中に届くにはあまりにも時間がかかってしまいます。
特に小規模な店舗ビジネスでは、コーヒーを一番飲む機会が多いであろうビジネスパーソンに、こだわりの一杯を届ける機会がありません。東京駅で働くサラリーマンは、出社前に渋谷や吉祥寺に足を運んではくれないのです」
そこで川野氏が構想したのが、コーヒーの福利厚生サービス「WORC」だ。ビジネスモデルはシンプルで、法人単位で契約を結ぶサブスクリプションモデル。登録さえすれば、バリスタが丁寧にドリップした高品質のコーヒーが、毎日オフィスに届く仕組みになっている。
そもそもコーヒーの味こそがコアコンピタンスであるため、川野氏は「WORC」のスケールに絶対的な自信を持つ。まして、ビジネスモデルにも勝算を感じているそうだ。
「一号店を吉祥寺にオープンしたあと、経営と並行しながら、会社員勤めをしていた時期がありました。その時期に僕は、「コーヒーを飲むためにわざわざオフィスを出る人はいないが、美味しいコーヒーを飲みたいビジネスパーソンはたくさんいる」ということを知ったんです」
川野氏が勤めていたリクルートホールディングスは、大企業ゆえにビルが巨大で、職務スペースから外に出るだけでも時間がかかる。「階下のコンビニまで行って帰ってくるだけで、15分以上かかる」そうだ。外に出ることさえ億劫になってしまう環境では、こだわりのコーヒーを求めて羽を伸ばす気持ちの余裕など生まれないだろう。
この状況を逆手に取り、川野氏は独自に“コーヒーショップ”を開業する。日常的に缶コーヒーを飲む同僚に「もっと美味しいコーヒーを飲んでほしい」との思いから、デスクでドリップしたコーヒを一杯100円——つまり、原価で配り始めた。
「コーヒーを淹れていることを周知すると、次第に評判が広がり、“即売”するまでになったんです。Slackに「コーヒーができあがったことを知らせるチャンネル」を作成したところ、全社で最も人が参加するチャンネルになっていました。
オフィスを起点に“コーヒー難民”を救うことは、「美味しいコーヒーを、もっと日本人に知ってもらいたい」という、LIGHT UP COFFEEの原点につながります。また、「お店で待っているだけでは、美味しいコーヒーを届けられない」という僕の歯がゆさを解消することもできる。
「特別な特許」や「先端技術」は持っていませんが、僕が絶対の自信を持つ「美味しいコーヒー」を武器に、スタートアップを創業することを決めました」