新型コロナで株価3倍、ワクチン開発企業に賭けたハーバード大教授の投資術

米マサチューセッツ州ケンブリッジを拠点とするモデルナ

ハーバード大学の生物学教授であり、連続起業家でもあるティモシー・スプリンガーは、10年前に駆け出しのバイオテック企業に将来性を見出し、早期投資を行った。彼は、その投資で得た利益をバイオテック医薬品の「モデルナ」という会社に投資し、総資産10 億ドル(約1070億円)以上のビリオネアの仲間入りを果たした。

モデルナは3月16日に世界で初めて、ヒトを対象とする新型コロナウイルスのワクチン臨床試験を開始した。5月12日には、同社のワクチンが米国食品医薬品局(FDA)の迅速に審査を行う「ファストトラック」に認定されたと発表。株式市場が低迷するなかで、同社の株価はこの週に12%以上上昇した(※のちに大幅に下落)。

米フォーブスの推定では、スプリンガーは現在、モデルナの3.5%の株式と3つの小規模なバイオテック企業の株式を保有しており、モデルナの株価の高騰でスプリンガーの総資産は、5月16日現在で計10億ドルになった。

「私の哲学はよく知っていることに投資することで、私は根っからの科学者。物事を発見するのが好きです」と、72歳のスプリンガーは語る。「多くの科学者が企業を立ち上げますが、成功する人はほとんどいません。私は積極的な投資家であると同時に、非常に厳格な科学者でもあります」

3月11日に世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスをパンデミックと宣言して以来、同社の株価は一時、3倍近くになり、同社のCEOであるステファン・バンセルも、この驚異的な成長でモデルナの「もう一人の億万長者」になった。

スプリンガーにとって億万長者のバイオテック投資家はあくまで副業で、ハーバード・メディカル・スクールの生物化学と分子薬理学の教授が本業だ。

スプリンガーはハーバード大学で免疫学を研究し、リンパ球機能に関連する分子を発見。これがFDA承認の抗体医薬の開発につながった。スプリンガーが起業家精神を発揮したのは1993年。バイオテック企業のLeukoSiteを設立した。1998年に株式を公開し、その1年後には6億3500万ドル相当の取引で米製薬大手のミレニアム・ファーマシューティカルズに売却した。

2010年のモデルナの創業時に約500万ドルを出資し、10年後のいまでは初期投資額は約8億7000万ドルの価値になった。新型コロナウイルスが登場するずっと前から、スプリンガーは同社の画期的なmRNA技術をどのようにワクチン開発に役立てるかを考えていた。

「私たちはパンデミックに備えるために使えると非常に早くから考えていました。そのため、通常は流行していないものの、新たなパンデミックを引き起こす可能性のあるタイプのインフルエンザウイルスを使って、臨床試験に投資してきました。パンデミックのシナリオをずっと意識していました」
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翻訳=Forbes JAPAN 編集部

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