その写真を見せられつつ、また『早くしゃべろ』のようなことを言われ続けましたが、トイレにも行きたかったし、もういいや、という気持ちになって『私がやりました』と、嘘の自白をしました。そのとたん、A刑事は『はい、逮捕』といって、私の手首に、黒い手錠をかけました。トイレは、この後、ようやく行くことができました。
6月4日から5日に釈放されて、当時の会社の社長が京都の弁護士を紹介してくれました。逮捕された状況を話したところ、弁護士は私に対する刑事の態度についての抗議文を作ってくれて、私と一緒に警察署に、これを出しに行きました。
その後、私の家が捜索され、防犯カメラに写っていた犯人が着ていたのと同じ洋服がないか探していたようですが、そんなのあるわけがなく、警察官はなにも押収しないで帰りました。
真犯人がつかまったのは、その直後くらいだったと思います。その日のうちに虎姫署の署長が家に謝罪に来ました。また、別の日に、県警本部の偉い人が虎姫署に来て、私に事情を聴きたいというので、虎姫署に出かけたら、県警の偉い人と話をしたその場に、パンチパーマのような髪型だった頭を坊主に丸めたA刑事が来て、土下座して私に謝りました。そして『けがは大丈夫ですか』と聞かれました。足蹴りされたすねのことでした。
県警本部の偉い人は、私に対して『A刑事にどうしてほしいか』と聞いてきたので『滋賀県にいてほしくないです』と答えました。その後、A刑事が実際にどこで勤務しているか分かりません」
裁判資料を読み終えた私は、角記者を前につぶやいた。
「ひどい話だな」
男性にとっての幸運は、真犯人が現れたこと。そうでなければ冤罪から逃れるのは難しかったはずだ。古典的な捜査手法は今も常態化しているのかもしれない。自白偏重のこの国で日々、起きているかもしれない空恐ろしい現実を突きつけられる思いだった。
連載:#供述弱者を知る
過去記事はこちら>>