経済・社会

2020.05.31 12:30

埋もれていた、もうひとつの冤罪事件。暴行して自白させた刑事|#供述弱者を知る

連載「#供述弱者を知る」サムネイルデザイン=高田尚弥

一審の大津地裁(長井秀典裁判長)が捜査側の主張を全面的に認める一方、西山さんの法廷証言を「信用性がない」と断じたため、弁護側は「もうひとつの冤罪事件」を取り上げ、A刑事の信用性を崩そうと試みたのだ。
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この主張をさらに掘り下げたのが、有罪確定後の第1次再審請求審(2010年)の弁護団だった。

当時の弁護団は、A刑事に脅されて「アラームが鳴っていた」という嘘の供述をさせられた場面を獄中の西山さんに問い合わせた。また、窃盗事件の冤罪被害者にも直接あたり、A刑事の暴行に屈してうその自白をさせられた経緯を聴き取っていた。

2つの証言はいずれも新証拠として法廷に提出された。
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まずは、西山さんの証言からご覧頂きたい。

〈新証拠/請求人=西山さん=の回答書〉

「私は、Tさんを殺してもいないのに、殺したといってしまったのは、A刑事から1回目の取り調べを、まだ逮捕されていない時に受けた時に、机をバンとたたいて『私らは滋賀県警の本部からきたもんやから愛知川(えちがわ)署の刑事と同じだと思って調べを受けていたら痛い目に遭うぞ』と言われ、こわくなりました。

そして、アラームがなっていなかったとずっと言っていました。それなのに患者さんの家族もアラームを聞いていて、それに私がうろうろしているのも何度もみていて不信(原文ママ)に思っていたと言っている、と言われました。

もうにげることは出来ない、もうそろそろ楽になった方が自分の為だと言われても、最初の方は、なっていいひんもん、なったとは言えんと抵抗をしていましたが、抵抗するたび、机をバンとしたり、イスをけるマネをしたりして本当にこわい思いをしました。

そして、もうこんなこわい思いをするのだったら、アラームはなっていたと言った方がいいと思い、アラームはなっていたと言いました。でも現実なっていなかったので、どのようになっていたのかの経緯を説明するのには、嘘をついてしまいました」

刑事が言った「患者さんの家族もアラームを聞いていて」は嘘だった。そのような証言は得られていない。

パチンコ店で突然、被疑者に。逮捕から謝罪までの一部始終


A刑事が“たたき割り”を常とう手段としている様子が、もうひとつの窃盗事件の冤罪被害者の証言で浮かび上がる。被害者の男性の証言は、驚くべき内容だった。

長文だが、ぜひ読んで頂きたい。平穏に暮らしている一般の人がある日突然、冤罪をでっち上げられていく様子がありありと目に浮かんでくる。

〈新証拠/A刑事の特別公務員暴行陵虐事件〉

「2005年6月1日に、私は仕事が終わったあとにパチンコをしにでかけました。おそらく、夜の9時頃だったと思いますが、パチンコをしている私の台の後ろに制服と私服の刑事が複数人やってきて『話を聞かせてほしい』などといわれ、パチンコ屋の駐車場へ行きました。

駐車場では、刑事たちに囲まれて『パチンコのカードを取っただろう』などと言われましたが、身に覚えのないことだったので、私は『何もしていない』と繰り返し答えました。

そんな押し問答が1時間くらい続いたあとで、刑事のひとりがどこかに電話して『認めませんわ』というようなことを電話の相手に言っており、しばらくするとその電話の相手をしていた様子のA刑事がパチンコ屋の駐車場にやってきました。

#供述弱者を知る パチンコ店内のイメージ画像
男性はパチンコ店にいたところ、警察官に呼び出され、まず駐車場で問い詰められた (Shutterstock)
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文=秦融

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