(前回の記事:「たたき割り」捜査の犠牲者は2人。看護師は正気に戻った)
角記者とデスクの私がこんな会話をする中で、埋もれていた〝もう一つの〟冤罪事件が話題に上った。
秦「記事にするにしても、西山さんが、自分から自白しているところが、何とも厄介だよな。脅されたり、殴られたりして言わされた、というならね」
角「そうなんですよね。でも、最初は刑事に脅されてるんですよ」
秦「そう言ってたな。警察が看護師の過失事件にするため『アラームが鳴った』と言わせたところか」
角「西山さんが『チューブを外した』と言ったのも、その2カ月前の『鳴った』とつじつまを合わせるためだから、やっぱり刑事が脅した罪は大きいですよ」
刑事はもうひとつの冤罪で懲戒処分されていた
秦「脅された、と言っても、警察は否定するだろな」
角「それがですね、その刑事、別の事件でも被疑者に暴行して懲戒処分を受けているんですよ」
秦「本当? 札付きの刑事だった、というわけか」
角「しかも、その別の事件というのが、これまた冤罪だったんですよ」
秦「うそみたいな話だな。いつの話?」
角「西山さんの一審の裁判の最中にやってるんですよ」
秦「絶句だな。その刑事、同じ時期に2つの冤罪をつくってたってわけか」
角「しかも、1つは警察が誤認逮捕と認めた冤罪だったんです」
秦「どうして冤罪とわかったの?」
角「真犯人が見つかったんです。警察署長が被害者に謝罪してるんですよ」
秦「それ、どんな事件?」
角「パチンコ店でカードを盗んだという窃盗容疑事件です」
秦「裁判で問題にならなかったの?」
角「控訴審の段階で問題にしてます」
そこで角記者は分厚い裁判資料から控訴趣意書(2006年3月)を取り出し、私に見せた。趣意書で弁護団はこう主張していた。
「A刑事は、公判で証言をしたわずか3日後に、結果として事件とは無関係なことが発覚した被疑者に対し、取調べ中、帽子で頭を叩き、胸ぐらをつかんだうえ、足を蹴るなどの暴行を加えたことがある。A刑事は否認する被疑者には暴行を加えることも辞さない者である。被告人(西山さん)にはなるべく自発的に供述させるよう留意し、強制、誘導することなく取り調べていたという供述は信用できない。そのように留意をして取調べをする警察官であれば、被疑者に対する暴行事件を起こすはずがない」