荒れるSNS コロナ禍でも健康的に使いこなす「遅い思考」のススメ

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ファストなコミュニケーションが加速するハッシュタグアクティビティ


カーネマンの研究によれば、私たちの「速い思考(ファスト)」は、防衛本能とも深く結びついていることから──敵から身を守るときにゆっくり熟考していては命を落としてしまう──、インフォデミックのような現象は仮想敵が想定されていることが多い。「私たちを追い落とそうと狙っている悪い奴がいる。だからそれを指摘しなければならない、悪を明らかにしなければならない」という語法が、多くの発信の底に透けて見える。

ファストなコミュニケーションの怖さは、本当はそこにはないかもしれない分断線があると考えてしまい、味方と敵とを隔てて敵を攻撃するモードに人を転化させる点にある。

新型コロナと方向性は異なるが、味方と敵とに二分された「友敵構造」が生まれ、そして現実に大きな影響を与えている意味で、5月中旬に起こった「#検察庁法改正法案に抗議します」にまつわる騒動も筆者にとっては考えさせるものだった。

Twitterでこのハッシュタグをつけた投稿が盛り上がり、一般ユーザーから芸能人&インフルエンサーまでさまざまな立場の人が呼応していった。筆者も実際に一晩の間にハッシュタグをつけた投稿が数十万件から数百万件に膨れ上がっていったのを横目に見ていたが、SNSのネットワークを通じて投稿数は指数関数的に増加し、日本のTwitterトレンドはもちろん、世界トレンドでも上位に達していた。

このような、SNSでのハッシュタグを活用した草の根的な社会運動は、「ハッシュタグアクティビティ」と呼ばれる。(この用語については、『グーグルが教えてくれない情報がそこにはある!「ハッシュタグ進化論」』参照)

これは筆者のTwitterアカウントでツイートしたことだが、下記のようなものはインフォデミックの一環のように感じてしまった。

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著者Twitterより

未知の事態であればあるほど、システム2「遅い思考」で考えることが求められる。しかし現実には、私たちは過去の経験に則ったバイアスを持ち、自分にとって安全か危険か、得するのか損するのか、発言者は敵か味方か……といった「速い思考」が優位になる。

くだんの怪しい相関図のツイートはデマであるという指摘を受けて既に削除されているが、現実の複雑性が捨象されているもの。特に、カーネマンのいう私たちの心の働きのシステム1に訴えかけるようなものほどファストに消費され、シェアされ拡散されていくリスクを明らかにした。
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文=天野 彬

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