SNSマーケティングを社会学的に考える


このようなとき、私たちは速い思考のときに役立ったヒューリスティックスやバイアスをおさえて、客観的な考察なども加えながらゆっくり妥当な解へと歩んでいく。こちらは時間も脳のリソースも費やすため、私たちは「省エネ」するべく日常の多くを速い思考に頼って生きているのだ。

つまり、人々の認知の多数派はファスト側にあり、日々の情報摂取やそこでのコミュニケーションもファストになされている。SNSはそうした人間のファストなありかたと相性が良く、そこに価値を感じてユーザーも継続的に利用している。わかりやすい情報ほどいいね! が押されるし、拡散される。だからこそ、そういったコミュニケーションが連鎖する。

わかりやすい、伝えやすい、広がりやすい。それが現代のSNSのファストなコミュニケーションに他ならない。

新型コロナウイルスとインフォデミック


大規模な疫病は、パンデミック(Pandemic)と呼ばれる。今回の新型コロナは、そこから転じて、「インフォデミック(Infodemic)」という言い方をされているのが特徴だ。これは、事実とは異なる不正確な情報、バイアスのかかった情報、妥当性のあるナレッジからは程遠いN=1の個別論などが人々に媒介され拡散されていくことで、本来知られるべき情報を押しのけて得にくくなる事態を指している。まさに「悪貨が良貨を駆逐する」だ。

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そのような発信でタイムラインが埋め尽くされ、混乱がもたらされ、「何が起こっているのか、どう判断したらいいのかわからない」という感情から、実態以上に恐怖が膨れ上がってしまった面がある。

こうした発想自体は、特段珍しいものではない。ウイルスの広まりは、情報の広まりと近いものとして昔から認識されてきたからだ。例えば、”Viral”という言葉は「ウイルス性の」という原義に加えて、「情報が口コミで徐々に拡散していくさま」を指し、そこから派生して「バイラルメディア」のような言い方もなされる。人々の情報はウイルスのように広がっていくというわけだ。

そして、このような傾向は震災や戦争など危機・有事のタイミングでは必ず問題になる。本当に知られるべき情報ではなく、不正確な情報やデマなどが大量に発生して、人々の認知を占めてしまうということはSNSがブーストする面もあるが、公平を期すうえで言うべきなのは、そのような問題はSNSがない時代にも起こっていたという事実だ。本稿では深入りしないが、流言飛語の研究としての蓄積がそうした社会の暗部を指し示すだろう。

そして最近の研究では、ネガティブな情報の方がポジティブな情報よりも、そして攻撃的な投稿の方がそれをいさめる冷静で理知的な投稿よりも、より広く拡散され広まっていくという性質があることが指摘されている。

さらにいえば、そのネガティブな情報も拡散者の「善意」によって広げられていることがわかわかっている。「デマを流してやれ」というよりは、ちょっとした正義感が「意図せざる結果」として不適切な情報をさらに拡散させる。

「みんなに知らせなければ」「嘘を流している人から社会を守らなければ」などの「良い動機」が結果的に有害なエフェクトをもたらすと見立てるべきなのだ。

文=天野 彬

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