オランダで社長をやって気づいた日本に足りないもの|逆境を生き抜く組織カルチャーVol.3

今村健一(写真=藤井さおり)

新型コロナウイルス感染拡大によって、日本ではあらゆる面での社会変革が迫られている。これからの時代に生き残る組織や求められるリーダーシップとはどのようなものだろうか。日本の企業や組織が起こしていかなければならない変化とはどのようなものだろうか。

米国で革新的なリーダーシッププログラムを運営するミネルバ大学に協力をお願いし、日本・海外の多くの事例を知る組織・人材開発の最前線の人に話を聞く連載企画(Vol.1Vol.2)。Vol.3は、約20年にわたりリクルートで経営企画や人事に携わり、オランダの関連会社CEOを務めた後、2019年に「人と組織の新しいつながり方」を開発する「HITOLAB(ヒトラボ)」を創設。代表をつとめる今村健一氏に話を聞いた。

──リクルートで長年、人材・組織開発の陣頭指揮を執って来られました。同社は早くから「成果報酬制度」を取り入れるなど人事制度改革を行っていた印象があります。

2000年代前半にミッショングレード制度(編集部注・求められる組織ミッションや職責レベルに応じて数段階のグレードを設け、報酬も決められる制度)が取り入れられました。当時、ある程度当社での経験が長い人がマネージャーやエグゼクティブ職に就くという等級制度を残していたのですが、会社全体で再度成長を目指していくにあたり、若手であっても成果が期待できる人たちに大きな仕事をどんどん任せていきたいと考えたのです。その考えの下、数年かけて人事制度・報酬制度・表彰制度の改革が行われ、結果的にうまく働いたのだと思います。

また、人材開発や役員登用の基準については、事業環境の複雑性が増している現代において必要なスキルセットをマイナーチェンジしてきています。ざっくりとではありますが、例えば以前は「深く考え抜く」ということが必要要件だったのですが、それよりも「まずは失敗を恐れず試してみる」ということが大事だよね、とか、より外部を巻き込んで物事を動かす力が必要になってきたよね、などです。

──ヒトラボとはどのような組織ですか? 創設のきっかけを教えてください。

昨年立ち上げたのですが、「人と組織の新しいつながり方」を作り出す実験部隊です。社員と会社だけではなく、学生と学校、市民と地域なども対象とした様々なテーマに関して実験を行い、未来的な組織のあり方、リーダーシップ、生き方や学び方を探っています。その一つの実験がミネルバ大学との提携です。彼らの先進的なメソッドを取り入れた社会人向けのリーダーシップ開発プログラムを、日本国内で広げて行こうとしています。

また、それ以外でも、社外の各セクターの方々と協働して、雇用、働き方、教育、地域創生など大粒の社会課題を、人事的なアプローチをもって解決していきたいと考えています。例えば、慶應大学SFC研究所と協力して、長崎県壱岐市の組織開発をやろうとしています。つまり「街全体の組織開発」です。市民が行政に主体的に参加するにはどうしたら良いのか、子供達が未来に希望が持てるような教育はどうあるべきか、そういったテーマに取り組んでいます。

創設のきっかけは、私自身が、オランダの関連会社で約2年間CEOをつとめ、ヨーロッパの社会の在り方を間近で経験し、日本にも取り入れられる新しい働き方や学び方があるはずだ、と思ったことです。自身の経験してきた人事や組織開発のアプローチを生かして日本の社会をよくしたい、と思いました。
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編集=岩坪文子

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