オランダで社長をやって気づいた日本に足りないもの|逆境を生き抜く組織カルチャーVol.3

今村健一(写真=藤井さおり)


あと、日本では完璧を目指しますよね。電車は正確だし、接客などのサービスも100%を目指します。しかし、ヨーロッパでは「80%くらいでいいじゃん」という感じ。客もそんなもんかな、と受け入れている。100%を目指す日本人は、80%までがんばった時間か、それ以上の時間をかけて80を100に持っていこうとする。だから時間当たりや人数当たりで見てみると生産性が低く出てしまいます。

また日本では、批判的な観点も含めて自分の意見を形成する思考法、いわゆる「クリティカル・シンキング」が決定的に苦手だと思います。これは単に教育でトレーニングされていないということかなと。横一列で、同じスピードで同じ答えを探すという教育では、自分で考えるということが鍛えられないのだと思います。

──日本の社会や組織をよくする鍵は何だと思われますか?

青臭いんですが、オランダから日本に帰ってきて、自分が日本の社会のために何ができるのかを考えました。リクルートには「Follow Your Heart(フォロー・ユア・ハート)」、一人ひとりが、自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生。それを実現する会社、というビジョンがあるのですが、果たしてそれを十分に実現出来ているのだろうか、という問いが生まれました。

本当は大学に行かずに起業してみたい、思い切って転職してみたい、新しいことを勉強してみたい、でも今の状態が安定しているから、我慢して動かずにいる、もしくは周囲と同じような選択をしている、そういう人は多いのではないだろうか。何かに属しているという意識が強いがゆえに他人と比較したり、人の目を気にしてしまう。組織と個人の関係が対等であれば、自分は自分そのものでいいんだ、と思える。そのための教育、学び方、働き方の改革が必要だ、と思いました。

そこで、ミネルバとの実験においては、彼らが持っている新しい学び方、オンラインラーニングのメソッド、これからの時代におけるリーダーシップの在り方やそのための思考法とコミュニケーション方法をあらゆる方面に展開していきたいと思っています。

中でも重要なターゲットは若い世代です。プロフェッショナル向けはもちろんですが、例えば高校生向けには「周囲とのコミュニケーションやコラボレーション」に比重を置いたプログラムが用意できます。また、小学生向けには「自分のことを知る、自分の考えを伝える」というテーマの授業ができるかもしれない。生徒に直接プログラムを受けてもらうだけではなく、学校の先生たちからの引き合いもあります。クリティカルシンキングやクリエイティブシンキングといった思考法や、自己探究の方法をオンラインで学んでもらうことができると思います。

全国の高等専門学校の技術レベルの高さにも驚いています。世界で闘えるエンジニアリングスキルを持っている。一方、それを自分の手でビジネスにしようという発想はまだまだ本流ではありません。高等専門学校生から起業家を生む手助けができれば、と思っています。

ミネルバとの学び方改革のプロジェクトも、長崎県壱岐市との組織活性プロジェクトも、着手している実験はいずれも短期的に結果が出るものではありません。10年くらいの長期スパンを見据え、岩盤のように凝り固まった色んな社会システムを変革していきたいと思っています。

新型コロナウイルスの感染拡大による社会全体への影響は深刻ですが、リモートワークやオンライン授業など、日本の働き方や学び方の環境が大きく変わっています。これからの社会変革の一助になるのでは、と期待しています。


今村健一(いまむら・けんいち)◎リクルート ヒトラボ ラボ長。1999年リクルート入社。2003年から経営企画室で経営企画と人事に携わる。12年に経営企画室長、翌年からグループの人事統括室長。16年に米国Indeed,Inc.のHRシニアディレクター、その後オランダEndouble社のCEOを経て、19年1月より現職。

編集=岩坪文子

ForbesBrandVoice

人気記事