オランダで社長をやって気づいた日本に足りないもの|逆境を生き抜く組織カルチャーVol.3

今村健一(写真=藤井さおり)


──オランダでは具体的にどのような経験をされたのですか?

2016年にオランダの人材派遣会社をリクルートが買収したのですが、その会社が保有していたEndoubleというHRテック企業のCEOをやっていました。リクルートは2010年代にグローバル化をすすめ、今や売り上げの約半分は海外事業のものです。しかし、海外企業を買収した日本企業がやりがちな、人材を日本から多く送ったり、人事制度に手を入れたり、ということはほとんどやりません。

日本からは事業トップに加え、本当に必要な数人だけが買収後の価値向上を目的に送りこまれます。私の場合もたった1人で赴き、Endouble社が提供していた採用ホームページの制作システムやそれをベースとしたデータアナリティクスのサービスをガラッと変更する指揮をとることになりました。

まず驚いたのは、オランダの人たちは本当にストレートで、はっきりと自分の意見を言ってくることです。社員からは着任初日に「そもそもなんでお前が社長なの?」と言われましたし、最初に挨拶に行った顧客からは、会って1分後にクレームを言われました。「これ、いつになったら解決できるんだっけ。あんた、そのためにオランダに来たんだろう」と。予想はしていましたが、思っていた以上の物言いにびっくりしました。

また、Endoubleの社員は80人ほどだったのですが、ヨーロッパ各国、ブラジル、中国、インドなど20カ国ほどの人々が働いている会社でした。毎日色々な衝突が起こりました。自分の国が大好きなので、その反動から他の国の人と対立することがよくある。

バックグラウンドの異なる営業のトップとエンジニアのトップの仲が悪い、というのはよくあることですが、この会社の場合はさらに国籍の違いが相まって、大変に感じることが多かったです。日本人のように忖度もなければ、自分の領域を越えて他の人を手伝う、ということもありません。ジョブディスクリプション(担当の業務範囲)も明確です。

会議はいつも白熱し、喧嘩のようでした。皆が自分の言いたいことを言う。結論に至るまでは、結構時間がかかる。しかし、一度決まったことは合理的にスピーディーにやります。もちろん、「今日は結論出なさそうだな、またやろう」という時もありました。しかし、みんなが色々と本音を言ってくれると、面白いアイデアが出てくるし組織として色んなバイアス(壁)が外されてくる。

そのとき初めて、「あー、これが多様性を活かすということなのかな」と腹に落ちた気がしました。失敗をするにも、違うタイプの失敗がたくさんできます。事業はうまくいかないことの方が多いと思いますが、色々な人がいると、失敗の種類も多様になる。組織が「しなやかな強さ」を持っているという印象です。

日本の場合は同じような意見がよく出て、同じような失敗をよくするな、と思います。人間は失敗でしか学べないと思っていますが、失敗の幅や種類は多ければ多いほど良いのではないでしょうか。日本においてもダイバーシティ&インクルージョンは長らく議論されてきましたが、正直まだまだだなと思います。

──日本とヨーロッパの働き方を比べて、どのようなことを感じられますか?

日本では、お互いに配慮し合って働いていて、ある意味一つの結論にたどり着いたり、意思決定することはやりやすいのかなと思います。ヨーロッパの働き方は、時間軸の取り方が異なる、と思いました。時間の捉え方が長く、ゆったりしています。

最初はその時間軸に慣れずに焦りましたが、1年たつと「そんなに焦ることはないかな」と余裕が持てるようになりました。アメリカの企業も似ているかもしれませんが、日本の企業は短期的な利益や幸せを求めすぎているのではないだろうか、と思うようになりました。多様な考えを受け入れながら、もっとゆったり構えてもいいんじゃないかと。
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編集=岩坪文子

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