ポストコロナの暮らしは「微生物と共生」を 顕微鏡の世界の可能性

「GoSWAB」伊藤光平代表。2018年Forbes JAPAN 30 UNDER 30に選出された。

微生物についてどんなイメージがあるだろうか。

乳酸菌、ビフィズス菌などの細菌類、話題の真核生物ミドリムシ(ユーグレナ)など、食品として取り込むことで人体に良い影響を与えてくれるものから、新型コロナウイルスのようなウイルスも微生物のうちに分類される。要するに、目には見えない小さな生物をまとめて微生物と言う。

新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)の感染症拡大により、あらゆる場所で頻繁に除菌が行われるようになるなど、微生物自体に悪い印象がつきまとっているが、そもそもウイルスには感染症を引き起こす病原性ウイルスの他にも人体に悪影響を及ぼさないものもたくさんいる。

また、私たちの周りからあらゆる微生物を排除しようとしたところで、それは不可能だろう。なぜならヒトの細胞数は37兆個程度であるのに対し、ヒト常在微生物の細胞数は細菌だけで38兆個にものぼるからだ。微生物は私たちの手にも、顔にも腸内にも、至る所に常にいる。そして彼らは独自のコミュニティを築き、様々な営みを行うことで、私たち人間に影響を与え続けている。このように身近な存在の微生物に、私たちは正しい知識をもち合わせているだろうか。

微生物
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「都市環境微生物」という学問分野に身を置く伊藤光平は、微生物と人間の関係に着目することで人々の健康や生活を発展させるべく研究を行なっている。伊藤が代表を務める微生物調査プロジェクト「GoSWAB」では「微生物と人が共生する社会の実現」を掲げ、微生物を用いた都市環境デザインを目指している。

新型コロナウイルスの流行によって、目に見えない極小の世界との関わり方を考えざるを得ない状況になっている昨今。微生物と人間が良い関係を構築し共生していくにはどうしたら良いのだろうか──。

室内の微生物の多様性が院内感染を防ぐかもしれない


伊藤たちの取り組みは、都市や室内環境での微生物の多様性とバランスを保つことに重点を置いている。微生物の多様性が保たれた環境は、人間にとっても良い環境であるからだ。微生物の多様性が上がると拮抗現象により、人間にとって悪い微生物が独占的に増殖することを防ぐことができるからだと言われている。動植物の生態系が一部でも欠けると、生態系全体が崩れていくのと同じように、微生物のコミュニティ(マイクロバイオーム)もその多様性を保つことで適切な均衡を保ち、ひいては人間にとっても良い環境であると言える。

実際に都市と比べて多様な微生物が生息する農地で育った子どもは、喘息など自己免疫疾患の重症度が比較的に軽度であることもわかっており、幼児期までに多様な微生物に触れることが免疫を上げることにも繋がると言われている。

では、都市で暮らす上で多様な微生物と関わるにはどうすればよいのだろうか。伊藤は最も簡単な方法として「自然換気」を推奨する。室内には滞在している人間から落ちたヒト常在微生物などが多いが、窓を開けて換気することで室内の有害物質の濃度が下がるだけではなく、土壌など自然環境に生息する微生物が室内に入ってくるため室内の微生物の多様性を手軽に上げることができるのだ。

「たとえば、病院では機械換気が行われているのですが、機械換気だと自然換気に比べて室内の微生物の多様性が下がり、さらに病原性の微生物の割合が高まることがわかっています。これが院内感染の原因の1つになっているのではないかとの指摘もあります」
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文=河村優

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