驚いたのは、ユニクロのスピード感だ。毎週土曜の朝にチラシを出して、1週間の結果を翌々週月曜に分析し、火曜には次週の戦略を決定する。自動車業界では月1回だったPDCAを、ユニクロは毎週回していた。
「トヨタは大企業らしく、プロセスの正しさにこだわります。でも、柳井さんは、データが揃わずに完璧じゃなくても、早く実行すればすぐにお客様が正しいかどうかを教えてくれるという考えでした。これは本当に勉強になった」
その後、日産自動車からスカウトされ、インドネシア現地法人の社長に就任。3年で売り上げを倍増させた。評価されてアジア・パシフィック地域統括会社の社長になるが、「管理職に近く、現地法人の社長よりグリップ感が乏しい」。そう感じ始めたタイミングで声をかけてくれたのが、ボルボだった。
木村がプレミアムとコモディティに二極化する流れを見極めてボルボを復活に導いたことは前述の通りだ。ただ、ここにきて二極化とは別の新たな変化が起きつつあるという。
「自動運転の話題が増えるにつれて、『安全』を意識するお客様が増えてきました。これまでプレミアムな輸入車と実用性重視の国産車はマーケットが分かれていましたが、安全というテーマはどちらも共通。今後は垣根が低くなって同じ土俵で争うことになるでしょう」
ボルボはもともと安全を売りにしていたブランドで、木村はこの潮流を「国産志向だった方にもボルボを見てもらえる」とポジティブにとらえている。果たして、読みは正しいのか。その答えは、やはり顧客だけが知っているのだろう。
きむら・たかゆき◎1987年、大阪大学工学部卒業後、トヨタ自動車に入社し、海外の商品企画を担当。2003年、米国ノースカロライナ大学経営学修士(MBA)取得。その後、ファーストリテイリングを経て日産自動車に入社し、海外事業の要職を歴任。14年より現職。