自粛下でも人は創造的になれる「ENJOY HOME」


さて、このような徹底的な掃除の効能は、なんといっても「自分にとって本当に必要なものはなんだろう?」と考え始めることにある。それはモノだけには止まらない。自分のライフスタイルにおいて本当に必要なものは何か、というところにまで思い至る。取り憑かれたように欲しがっていたものが要らなくなったり、やらないといけないと思っていたことがそこまで重要ではないと気づいたりと、精神的な断捨離が始まるのだ。それこそ、社会が変わるきっかけになるかもしれない。
 
一方で、いままでやっていなかったことを始める人も増えているだろう。僕はせっかくできたこの時間に、絵を描いたり楽器を弾いてみたりしたいと考えている。東京FMの番組「SUNDAY’S POST」でも、「家にいる時間が増えたこんなときだからこそ手紙を書こう」と呼びかけているのだが、まずは自分に絵手紙を出してみたい。
 
楽器のほうは、ピアノを再開したい。実は3歳からピアノを習っていて、5歳でやめてしまったのだ(いまだに5歳児レベルの「ジングルベル」なら弾けます!)。もしくは、ウクレレ。以前、湘南のウクレレビルダー・三井達也さんのアトリエまで行き、自分の好みを伝えて、30万円でつくってもらった世界にたった1本のウクレレがある……はずなのだが、なぜか見つからない。
 
ところでこれは個人的な意見だが、「STAY HOME」というキーワードは、犬に「HOUSE!」と言うような、「家にいなきゃいけないんだ」というネガティブな気持ちにさせると思う。そこで「ENJOY HOME」を提唱したい。誰だって「1カ月間、家にいなさい」と言われるより、「1カ月間、自宅で好きなことをしよう」と言われたほうがワクワクするし、制約の多い生活の中でやはりポジティブな行動を見つけることが重要だと僕は思う。

それぞれの想像力を膨らませる


最近、末永幸歩さんという美術教師の書いた『13歳からのアート思考』という本を読んだ。冒頭が面白くて、まずモネの睡蓮の絵が載っている。「この絵を見てください」とあり、次ページに「あなたは、絵を見ましたか? 解説文を読みましたか? おそらく多くの人が解説文と絵を照らし合わせてみたのではないでしょうか」というようなことが綴られる。それが大半の人が思う「美術鑑賞」なのだと。
 
話は続く。岡山の大原美術館でモネの睡蓮に見入っていた4歳の少年が、突然作品を指差し、「カエルがいる」と言ったそうだ。モネは一度も睡蓮にカエルを描いたことがない。

驚いた学芸員がどこにカエルがいるのか尋ねると、男の子はこう答えた。「いま水に潜ってる」。

末永さんは「これが本当の美術鑑賞なのです」と言う。つまり、一枚の絵に対し、一人ひとりがそれぞれの想像力を膨らませることこそが美術の価値なのだ。僕は、「企画」もそういうものではないかなと思った。ポストコロナの世界で何を見つめ何を思うかが、企画の第一歩ではなかろうかと。

「幸せ」という言葉は「仕合わせ」と書いていたらしい。「〜し合わす」の変化系で、つまりは「巡り合わせ」だ。とするなら、「幸せ」にはいいことも悪いことも含まれていたに違いない。もしくは悪いことに巡り合ったとき、それを乗り越えた先の喜びや充足感を「幸せ」と表現したのかもしれない。

コロナウイルスが9.11やリーマンショック、3.11などと大きく違う点は、これが世界の「どこか」で起きていることではなく、世界中の人々の同時体験になったことだ。政府に腹が立つという人もいれば、人にうつらないようにしようと考える人もおり、この時間を利用して何か始めようという人もいる。そのようにいいことと悪いことが「仕合わせ」たとき、そこで何を考えるかによって、「幸せ」の価値が変わってくる。試練であると同時に、自分の価値を変換しなくてはいけない岐路に立たされているのではないだろうか、と思えてならない。

イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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