ビジネス

2020.05.29

【独白】吉本興業・大﨑会長が40億円の大打撃を「ラッキー」と言う理由

大﨑洋 吉本興業ホールディングス 代表取締役会長


しかし、現実は甘くない。吉本興業は、仮に年末まで劇場を閉じるとすれば、今期で赤字額は40億円に上ると予想する。

「銀行から受ける融資は80〜100億円。昨年の闇営業問題と比べたら、1億万倍、次元の違う話。それでも、基本的に誰の力も借りないで、自分たちで支え合おうと思っている」

覚悟の裏にあるのは、2011年に始まった「あなたの街に住みますプロジェクト」。全国47都道府県に吉本のタレントを居住させ、地域を盛り上げていこうというものだ。

赤字覚悟で始めた事業だったが、初年度から黒字となった。その後、居住地域はタイ、インドネシアなどアジア7カ国・地域に拡大。芸人と社員が現地に腰を据え、地域の社会課題解決に取り組むことで、地元に新たなコミュニティを生み出した。

コロナで不安定な状況の中、このコミュニティは地域の共助の場となっており、その価値が再認識されている。

09年の社長就任以来、大﨑は「デジタル」「アジア」「地方」という3つのキーワードで吉本興業を引っ張りながら、勝ち負けではない、皆が助け合える世界を目指してきた。それがいま、急速に実現に向かっている。

「僕の思い描いていた共助の世界は、ある意味ラッキーなことに、危機的状況の中でさらに需要を増している。いまは大変なときだけど、ここでいろいろなプラットフォームを使いながらコミュニティを作ることで、今後も力強く生き残ることができる」

資本主義社会においてある程度の競争は必要だが、大事なのは勝ち残ったリーダーが未来への指針を示せるかどうかだと大﨑は語る。

「新型コロナウイルスのような危機は、きっとこれからも訪れると思う。今世紀はずっと、戦中戦後のような状況を繰り返すんちゃうかな。その中で、個人も組織もますます支え合って生きていかなあかん。吉本はそんな助け合いのコミュニティを、これからも作り続けたい」

不易流行、その言葉通りに。


おおさき・ひろし◎1953年生まれ。 78年、関西大学社会学部を卒業後、吉本興業に入社。82年に吉本総合芸能学院(NSC)の担当となり、一期生のダウンタウンの東京進出など若手芸人の育成を担当。2001年に取締役、09年に社長に就任し、19年より現職。

文=井土亜梨沙 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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