AI通信「こんなとこにも人工知能」

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次世代テクノロジーの覇権を巡る米中の争いが、さらに激化しそうな気配だ。

5月22日、米政府は「エンティティーリスト」に中国企業33社を新たに追加した。同リストは、米国製品の輸出や米国由来の技術移転などに対して、米当局の許可が必要になる機関・団体の“ブラックリスト”だ。リストに登録されると、政府の認証なしに技術を販売することが不可能になる。

人権侵害や米国の国家安全保障への懸念というのがリスト追加の理由だが、昨年8月には同じ理由でファーウェイのグループ企業46社が、10月には中国のトップAI企業など28組織がリストに追加されている。今回も複数の先端テック企業が含まれた。

ほぼタイミングを同じくして中国政府は今月末、両会(全国人民代表大会、全国政治協商会議)を通じて、2025年までの6年間に人工知能(AI)、ビッグデータ、5G、産業用インターネットなど、次世代先端テクノロジーに10兆元(約150兆円)を投資するという大規模な計画を承認した。同計画は、地方政府とファーウェイ、アリババ、テンセント、デジタルチャイナ、センスタイムなど、中国を代表するテクノロジー企業の協力のもと、先端テック産業を集中的に育成していくというものである。

昨今の米中摩擦の文脈を考え合わせれば、国を挙げテクノロジーへの投資をさらに徹底的に行い、米国に対する技術的・経済的・市場的依存度を下げ、最終的に確固としたテクノロジー覇権を築くという意思表示とも取れる。

中国政府のテクノロジー投資は中国企業を中心に行われる。そのため、海外企業は中国国内で既存のシェアを失いかねないという観測もある。例えば、今回の計画に参画するデジタルチャイナは、IBM、オラクル、EMCなど米国企業によって国内都市に構成されたクラウドコンピューティングシステムを、中国製技術で代替できるよう支援していく予定とされている。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、米中首脳の政治的な立場は非常に危うくなっている。米国やトランプ大統領の状況は報道を通じて日本にも伝わってくるが、「中国でも指導部は現状打開に政治生命を賭けている」(日本在住の中国人研究者)という。そんななか、自国の正当性を鼓舞する“手段”のひとつとして積極的に用いられているのが、「テクノロジー・ナショナリズム」だ。「規制」と「札束」というグローブを両手にはめた、二大国家の殴り合いである。

今後、日本も米中のテクノロジー・ナショナリズムと無関係ではいられないだろう。経済学者であるニューヨーク大学のヌリエル・ルビーニ教授は、英BBCのインタビューで「AIや5G、ロボット技術など、米中のどちらの技術を使うか決断を迫られるだろう。それにより、世界はさらに分裂していくとみている」と懸念を表明している。

昨今世界中で“分断”が取り沙汰されているが、テクノロジーそれをさらに加速させるのだろうか。日本を含むアジア各国には、独自の構想や生き残りのための新たな戦略が求められていきそうである。

連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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文=河鐘基

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