次の50年を生きる当事者として。コロナ危機を「機会」にするムーブメント


情報を受け取るだけではなく、民間から行政にアイデアを提案


──現役官僚という立場からは、このプロジェクトや集まっているアイデアについてはどう見ていますか。

田中佑典(以下、田中):まずは個人的な感想になりますが、僕が今住んでいるニューヨークは、世界的に見てもテクノロジーの活用が進んでいる街です。例えば、ドローンを使って人の密集度を測る実験や、医療機関同士の情報共有にあたって、患者さんの遺伝子情報や疾病情報を相互にシェアする取り組みも行われるなど、一歩先の未来が実際にもう起きているんですね。

今回のプロジェクトは、既に300件以上のアイデアが集まっていますが、その中には、ニューヨークの取り組みよりも更に進んだ未来を見据えたものが混ざっていたりして、すごく面白いなと思います。

いち行政官として思うのは、行政というのは危機の時には守りに入らざるを得ない。今回の場合は、感染をどう抑えるのかとか、いかに死者を減らすのかといったことに終始しなくてはいけない。どうやってこの先の未来をつくっていくのかという、いわゆる攻めの政策には、なかなか手が出せないんです。

『Withコロナ』とか『Afterコロナ』を考える時、正直に言えば、官の立場だけで対応していくことは難しい。今回のPMIの取り組みの、たくさんの人の知恵を集めて集合知にして、共有・分散させていくプロセスは、今後の行政の取り組みにおいても、非常に価値があると思いますね。今回のコロナに限った話ではなく、民間から提案していく土壌ができればいいなと考えています。

高木新平(以下、高木):政治とか行政って、これまでは、多くの人にとって関心の薄い分野だったと思うんですよ。でもコロナによって、急速に関心が向いている。でも、基本的には行政からの情報は受け取るだけで、自分たちから提案する機会ってなかなかないじゃないですか。

今回のプロジェクトのように、広く意見をすくい上げるような機能によって、オープンイノベーションの小さな成功体験になればと思います。

南知果(以下、南):まさにそうですね。スタートアップ企業もそうだし、普段政治や行政から遠い立場にいる人たちからアイデアが集まること自体に、意義があると感じています。また、本当にたくさんある社会課題を解決していくにあたって、『POLICY』『TECH』『CULTURE』というフレームもわかりやすいんじゃないでしょうか。

実際問題、課題解決をするための『TECH』『CULTURE』はあるけれども、制度やルール面の『POLICY』が実はハードルになっていることって、結構あるんです。

でも、法規制に関わるアイデアの場合、日本では、法律案は国会に提出しなければいけません。そして国会に提出することができるのは、内閣か国会議員のいずれかだけなんですね。そう考えれば、『POLICY』に関わることを実現させていくためには、政治家や官僚のみなさんに、取り組むべき政策課題であることを認識してもらうことが必要。民のアイデアを官に届けられるプロジェクトにできたらと考えています。


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文=伊勢真穂

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