人は購買行動において、必ず意味づけをする。自分を納得させる「買う理由」を探す。この意味づけこそが、「付加価値」の正体であり、そのモノの価値を原価の倍にするのか、1万倍にするのか、それとも原価以下にしてしまうのかの分水嶺となる。
実は、ブランドもアートも、その意味づけによって人を惹きつけているのだ。今回はブランディングにおいても参考となる、アートにおける意味づけの好例を紹介しよう。
「意味づけ」はアートの生命線
アート作品の意味づけには、ビジネスにも有用なヒントが多い。現に、意味づけに成功したアートの収益率はファッションブランドの製品に比べて圧倒的だ。その稀有なメリットを享受するべく、最近はアートとコラボするブランドも多い。
例えば、英国のトップアーティスト(美術家)の1人であるダミアン・ハーストとファッションブランド「シュプリーム」のコラボでは、ハーストの「スポットペイントティング」という作品をプリントしたスケートボードデッキがある。2009年に発売されたが、即完売。限定数500セットということもあり、いまでは販売価格の10倍を超えるようなプレミアムな商品となっている。今後も、さらに価格は上昇していくだろう。
つまりこれは、市場がこのスケボーデッキを「アート作品」として認識していることに他ならない。アートは、このように原価に対して付加価値の占める割合がハンパではないのだ。
2017年にZOZOの創業者である前澤友作氏が、サザビーズのオークションで、ジャン=ミシェル・バスキアの絵画を約123億円で落札して大きな話題となったが、その絵画の素材原価は果たしてどのぐらいだろうか。
17世紀の画家ヨハネス・フェルメールは、宝石でもある高価なラピスラズリ(瑠璃)を原料とした青色顔料(ウルトラマリン)を使用していたことで有名だが、バスキアはストリートアートなので、画材にコストをかけているとは考え難い。123億円に占める原価率は、圧倒的に低いと言えるだろう。
アートで「新発売」に相当するプライマリーと呼ばれる作品でも同じことだ。現代アートで最高峰とも言われるゲルハルト・リヒターは、プライマリーでもその価格は日本円で億を超える。それらアートの原価率は、どんなラグジュアリーブランドでも足元にも及ばない。
付加価値のないアートは、ただの紙や布に絵具を塗っただけのシロモノに成り下がる。画面一杯に描かれていれば、メモ用紙にもならず、紙であれば実用性はティッシュにも劣る。
では、その肝となる付加価値はどのようにつけられていくのか。実際の作品を例にとって見ていこう。